特異な動脈内膜病変を伴い、シクロスポリン急性腎毒性が疑われた生体腎移植症例

名古屋第二赤十字病院 腎臓病総合医療センター
* 堀家 敬司、前田 佳哉輔、坂井 薫、山岸 優雅、小野田 浩、武田 朝美、永井 琢人、後藤 芳充、宇野 暢晃、佐藤 孔信、後藤 憲彦、佐藤 哲彦、松岡 慎、長坂 隆治、片山 昭男、冨永 芳博、打田 和治、両角 國男
 

症例は20歳女性。若年性ネフロン癆から18歳時にCAPD導入され、44歳実父より2004年10月20日に腎移植術を施行した。WIT=5分、TIT=1時間19分、初尿は38分後であり、一時間生検では細動脈硝子化を認めた。免疫抑制療法はシクロスポリン、プレドニゾロン、MMFを用い、術後4日目にCr=0.86mg/dlまで改善した。IGTあり術後はインスリンを使用した。術後6日目に発熱と混濁尿あり、尿路感染症+敗血症にて抗生剤開始しWJカテーテルを抜去、MMFも中止した。同時に肝機能障害、移植腎機能も低下した。感染症改善後もCr=2.32mg/dlと改善なく尿量も減少し術後13日目に1回目の移植腎生検を施行した。巣状の尿路感染症が存在し尿細管間質傷害は強いが急性拒絶反応は認めず、小葉間動脈レベルの太めの動脈内膜部に血管腔を狭小化するような高度な浮腫性病変を認めた。それまでシクロスポリン濃度はC2=1400ng/mlを目標にコントロールしてきたが、移植腎生検組織像よりシクロスポリンを一時中止後減量投与とした。乏尿続き術後16から21日目まで血液透析を要した。徐々にCr=1.59mg/dlまで改善し術後33日目に2回目移植腎生検施行し組織病変を評価した。
免疫抑制療法はシクロスポリンとプレドニゾロンで継続したが、その後も尿路感染症を繰り返した。術後57日目に再度移植腎機能低下あり(Cr=2.47mg/dl)、3回目の移植腎生検を施行した。特異な動脈内膜病変は残存持続しており、間質尿細管傷害は高度に進展していた。シクロスポリンは少量を1日1回投与に変更して継続し、感染症のコントロールを主体に経過をみて移植腎機能は改善傾向となった。その後、移植4ヶ月後のプロトコル生検を実施した。
1回目移植腎生検は、尿路感染症を契機に移植腎機能悪化を認めたが臨床的には感染症はコントロールできていた時点での移植腎機能障害と腎生検組織像である。急性拒絶反応像は認めず、典型的なシクロスポリン急性毒性所見とされる尿細管病変、細動脈病変も認めなかった。尿路感染に伴う巣状の尿細管間質傷害と小葉間動脈レベルの動脈内膜部に特異な浮腫性病変を認めた。2回目、3回目生検においては、同様に動脈内膜部病変は存在していた。
臨床的な情報とあわせてシクロスポリン腎毒性による病変と考えてシクロスポリンの中止→減量にて対処し、移植腎機能は改善を認めた。この特異な動脈内膜部病変の成り立ちについて検討する。


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