リンパ球の腫瘍性増殖とクローナリティー解析

茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター 病理科
* 飯嶋 達生

【はじめに】消化管、腎臓、肝臓、肺から採取された生検標本でのリンパ腫の診断は、通常、H.E.染色標本と免疫組織化学により行われています。しかし、炎症などの非腫瘍性病変との鑑別に苦慮する場合があります。今回は、生検標本でのリンパ球のクローナリティー解析によるリンパ腫診断への有用性とその限界について提示させていただきます。
 1つの腫瘍は、もとを辿ると1つの変異細胞に行き着くとされています。この1つの細胞に由来する腫瘍細胞群は、モノクローナルであると表現されています。リンパ腫も、変異の加わったリンパ球系細胞の1つに由来し、モノクローナルな細胞集団と考えられます。そこで、このリンパ球のクローナリティー検索により、生検標本上に見られるリンパ球集団が、単一のリンパ球に由来する腫瘍性のものか、または複数のリンパ球に由来する非腫瘍性のものかの判断の参考にすることできます。
 今回は、生検標本のような小検体でのリンパ腫診断において、パラフィン薄切標本からDNAを抽出し、PCRを使用してのリンパ球のクローナリティー検索を、実例を提示して紹介し、クローナリティー検索のリンパ腫診断における有用性と限界について提示します。
1)B細胞のクローナリティー検索の実際
 B細胞では、分化段階の初期に免疫グロブリン遺伝子の再構成が生じることは有名です。この免疫グロブリン重鎖遺伝子(Immunoglobuline heavy chain gene:IgH gene)の再構成による遺伝子の多様性を用いて、B細胞のクローナリティーの検索を行うことができます。
 まずスライドグラスに貼付されたパラフィン薄切標本から、検索しようとする組織部分を清浄な爪楊枝等で掻き削り、その組織片をproteinase K含有のTE液に入れタンパク質を消化します。このDNA溶液は精製せず、そのままPCR操作に使用します。PCRではFR2またはFR3Aをforward primerとし、reverse primerにはLJH, VLJHの2種類を使用して、semi-nested PCRを行います。PCR産物の泳動はアクリルアミドゲルを用いて行い、通常はethidium bromideで染色を行います。検体量が少ない場合には銀染色を行うこともあります。
2)T細胞のクローナリティー検索の実際
 T細胞では、B細胞と同じく分化段階の初期に生じるT細胞受容体遺伝子(T cell receptor gene:TCR gene)の再構成を用いて、T細胞のクローナリティーの検索を行うことができます。基本的には、B細胞のクローナリティー検索と同様の手順で行われます。ただしTCR geneは、IgH geneほどの多様性がないため、IgH geneの検索に比較してやや手数がかかります。多様性の少なさを補うために、TCR geneの複数の部位についてクローナリティーの検索を行われていますが、それに対応する複数のprimer setと複数回のPCR操作が必要となり、煩雑な作業となっています。このためT細胞のクローナリティー検索は、B細胞ほどには行われていません。そこでこの煩雑さを回避することを目的として、PCR産物の泳動をsemireannealing-SSCP(single strand conformation polymorphism:一本鎖DNA高次構造多型)法で行っています。この方法により、1つのprimer setによる1回のPCR操作で、T細胞のクローナリティー検索が充分に行うことが可能です。ここでは実例に即して、TCR-γ geneの再構成を応用したT細胞クローナリティーの検索方法について提示します。

戻 る  ページの先頭