サイトメガロウイルス感染を契機に、急性拒絶反応およびBKウイルス腎症を併発し、診断・治療に苦慮した一症例

福岡赤十字病院 外科
* 本山 健太郎、住吉 金次郎、寺坂 禮治、今泉 暢登志
福岡赤十字病院 腎臓内科
土本 晃裕、池田  潔
九州大学 病体機能内科学
升谷 耕介
国立病院機構福岡東医療センター
片渕 律子

 症例は34歳男性。CGNによる末期腎不全で22歳時血液透析導入となった。今回、54歳男性からの献腎移植を施行。HLA適合性は2ミスマッチで、レシピエントは輸血歴なくCMV IgGは陽性であった。
 移植後、免疫抑制剤はBasiliximab, Tac, MMF, steroidで導入。術後4日目の透析を最後に透析離脱し、術後20日のprotocol biopsyではBL, Tacrolimus-associated tubulopathy, mildと診断。Tacのトラフ値を下げ、術後40日にCr 1.63mg/dlで退院。
 術後2ヶ月目にサイトメガロウィルス抗原血症が出現し、Ganciclovirによる治療を行った。CMV antigenemiaは改善したが、次第にクレアチニンが上昇し、術後3ヶ月目にはCr 3.36mg/dlとなったため拒絶反応を疑い、腎生検を施行。t3, v0*, i3, g2, ci1, ct1 cg0, mm1, cv0, ah3,でAR Grade IBと診断。ステロイドパルス施行し一旦は反応したが10日後には再度クレアチニンが上昇したため、OKT-3を追加し、再度腎生検を施行した。所見は前回と同様であったが間質の出血が顕著となっていたため血漿交換を追加した。その後はCr 2.3-2.4mg/dlで推移していたが、約2週間後に尿中デコイ細胞を多数認め、BKウイルス腎症を疑い腎生検を施行。BK virus感染症と診断した。PCR法による血中BKウィルス定量は1.1x105コピー/mlと高値であった。免疫抑制剤の減量・変更を行い、Gatifl oxacin投与を行った後、3.0mg/dlまで上昇したクレアチニンは2.5mg/dl前後で落ち着いた。その後、次第にデコイ細胞は減少し消失、血中BKウイルスも検出できなくなった。
【疑問点】
1.臨床側から:術後1年目の現在Cr 2.2mg/dl前後で推移しているが、生検ではgrade IBのAcute rejectionが遷延しており、今後の治療方針にも苦慮している。
2.病理側から:本例では術後3ケ月以降の生検では著明な間質の細胞浸潤と高度の尿細管炎が一貫してみられた。尿中デコイ細胞が検出された時期に一致して核の腫大した尿細管上皮が散見されBKウイルス感染と診断した。しかし、その前からBKウイルス感染があったのを見逃していたのではないか?
ウイルス感染と急性拒絶反応の尿細管炎の見分けがつくのか、御教示願いたい。


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