急性抗体関連型拒絶により移植腎機能廃絶に陥ったが移植腎摘出を免れ経過しているABO不適合生体腎移植の1例

市立札幌病院 腎移植科
* 堀田 記世彦、原田  浩、諸岡 加奈子、平野 哲夫
市立札幌病院 泌尿器科
堀田 記世彦、三浦 正義、関  利盛、富樫 正樹
市立札幌病院 病理科
小川 弥生、田中  敏、武内 利直
北海道大学 腎泌尿器外科
堀田 記世彦

 症例は49才男性。慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にて9mの腹膜透析後、生体腎移植を施行した。ドナーは37才妻で血液型A型からB型の不適合であった(HLA 4 mismatch)。
 術前の抗A抗体価はIgG4倍、IgM16倍であり、preconditioningとしてD-8にrituximab 85mg(50mg/squre)を投与し、D-3、-2、-1の計3回のDFPPを行った。免疫抑制剤はDay -7からMMF、MPZ、D-3よりTACを開始した。術直前の抗A抗体価はIgG2倍、IgM1倍まで低下し、生体腎移植を行った(WIT 167s,TIT 74m)。術後の免疫抑制剤はTAC、MMF、MPZに加え、Basiliximab(D0、4)とIVIg(100mg/kg)を投与した(D0、1、2)。利尿はすぐに得られ、1Hr.腎生検でも異常を認めず、S-CreはD2には1.4mg/dlまで低下した。D4にS-Cre1.7mg/dlと軽度の上昇を認めたが、ドップラーエコーで血流は良好で、抗A抗体価はIgG2倍、IgM2倍と低値で、血液検査上もLDHの上昇や、血小板の低下などの抗体関連型拒絶(AMR)を示唆する所見を全く認めず、補液のみにより経過観察とした。しかし、D6にS-Cre2.4mg/dlとさらに上昇を認めたため腎生検を施行した。病理組織学的所見はi1、g2、v1、ptc3、PTCの補体染色はC4d(-)、C3( )であった(Figure)。臨床所見に乏しいがAMR type?としてD7から血漿交換を7回施行し、さらに、MPZ pulse 250mg 3日間、DSG200mgを7日間投与した。これらの抗拒絶療法にも関わらず抗A抗体価はIgG64倍、IgM256倍と上昇し、さらにD8から尿量の低下を認め血液透析を導入した。その後、移植腎機能は回復することなくドップラーエコー、MAG3シンチでも移植腎の血流は全く確認できなくなった。本症例は急性発症のAMRにて移植腎機能を喪失したが、発熱、移植腎の腫脹、DICなどtoxicなsignを全く呈さず移植腎を摘出することなく経過している点で興味が持たれる。


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