急性抗体関連型拒絶反応治療後に播種性MRSA感染を発症し免疫抑制剤減量に伴い再燃し移植腎機能喪失に至った献腎移植の一例

北海道大学病院 泌尿器科
* 下田 直彦、三浦 正義、福澤 信之、堀田 記世彦、鴨田 慎二、
毛利 学、菅野 宏美、野々村 克也
北海道大学病院 病理部
久保田 佳奈子、羽賀 博典、松野 吉宏

 症例は49歳男性。小児期より蛋白尿を指摘された原疾患不明の慢性腎不全で25年の透析歴の後、23歳の心臓死ドナーからの献腎移植を施行された。移植前CDCクロスマッチ及びFlowクロスマッチは陰性。タクロリムス(TAC)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、メチルプレドニゾロン(MPZ)、バジリキシマブの4剤で導入。高カリウム血症が悪化して21病日に移植腎生検を施行、抗ドナーHLA抗体(DSA)陽性で、急性抗体関連型拒絶反応(AAMR)type?と診断し、血漿交換、ステロイドパルス療法、塩酸グスペリムス、リツキシマブ投与を行った。28病日より発熱あり、CRPが著明に増加、MRSA敗血症、DICを発症した。TAC、MMFは中止したが、MRSAによる腸腰筋を含めた多発横紋筋膿瘍、肺炎、感染性心内膜炎を合併し、90病日まで集中治療を要した。この間、38、50病日の腎生検ではAAMRは治癒していたが、72、108病日の腎生検ではt1i2程度の炎症とptc3相当のPTC炎を認めた。ただし、血清クレアチニン(sCr)値は1.0 mg/dL前後で安定した。148病日の生検では細胞浸潤は軽減したが、C4dの沈着がPTCに瀰漫性に陽性となり、DSAも陽性であったのでAAMRと考えられたが腸腰筋膿瘍と真菌性眼内炎が残存していたため抗拒絶療法は施行しなかった。160病日頃には腸腰筋膿瘍は消失し、CRPも陰性化、眼内炎も軽快しβ-Dグルカンも陰性化した。抗拒絶療法の再開を検討していた矢先、175病日にsCrが1.6 mg/dLまで上昇したため移植腎生検を施行した。血栓を欠くもののPTC内の赤血球の鬱滞と間質出血が見られ、ptc3相当のPTC炎があり、C4dの沈着はPTCに瀰漫性に陽性となり、DSAも強陽性であることからAAMR type?と診断した。重症感染を起こした経過から、治療はTAC再開、血漿交換、γグロブリン大量療法のみとした。DSAの減少は得られず、177病日からは血液透析を要した。184病日の腎生検では泡沫細胞を伴う動脈病変と糸球体基底膜の二重化も出現した。細胞浸潤と尿細管変性が出現し、PTCのC4d沈着は限局的に陽性であり、Chronic active AMRに移行した可能性があると診断した。今までの経過と全身状態に鑑み、これ以上の抗拒絶療法はせずに血液透析の再導入とした。


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