移植腎組織におけるThyroidizationに関する泌尿器科的検討

岐阜大学医学部 泌尿器科
* 伊藤 慎一、土屋 朋大、守山 洋司、菊地 美奈、出口 隆
東京慈恵会医科大学柏病院 病院病理部
小林 賛光、山口 裕

 Thyroidization(Thyroid-like appearanceと同義語)とは、慢性腎盂腎炎など尿路感染症、結石、VURなどの尿路のうっ滞などを原因として、萎縮した尿細管の内腔に高度なコロイド円柱の集簇した像を呈しあたかも甲状腺様に見えるものをいう。移植腎組織においてもこのような像をときに認めることがあるが臨床的には余り顧みられることはなかった。今回これらの症例に対して原因となる病態の有無を調べるため検討を行った。
 2006年1月から2008年4月までに施行した移植後腎生検251例(のべ患者数103名)に対して病理組織学的検討を行った。その結果、17名においてthyroidizationを認めた。このうち同意の得られた15名に対して排尿時膀胱造影検査を施行した。15名中3名にVURを認めた(Gr1 1名、Gr2 2名)。Gr1のVURを認めた症例は後の生検ではthyroidizationは認めなかった。Gr2のVURを認めた2名のうち1名ではsubclinicalな腎盂腎炎を認めた。もう1例では尿路感染の既往はなかったものの移植手術後萎縮膀胱のため尿管吻合部破裂を認め、現在でも膀胱容量は190mlと低容量であった。また全症例中尿路性器感染の既往は5名に認めた(このうち2例は前立腺炎で、その後前立腺肥大症としてα1遮断薬を処方している)。計17症例中7例に尿路系の何らかの問題を認めた。
 移植腎においてthyroidizationを認める症例では感染、尿路のうっ滞、逆流など何らかの尿路系合併症を有している症例もみられる(しかし、既往症でも所見は残存するため古い所見を見ている場合もある)。このような症例では移植腎機能の予後に影響する可能性もあり無視できない所見と考えられる。


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