尿細管外へのTamm Horsfall蛋白逸脱を示す症例の検討

東京女子医科大学 腎臓小児科
* 秋岡 祐子、近本 裕子、松村 英樹、久野 正貴、服部 元史
東京女子医科大学 腎センター病理
堀田 茂
東京慈恵会医科大学柏病院 病理
山口 裕

【背景】
プロトコール移植腎生検では、血液・尿所見に見合わない腎組織所見を呈する例がある。とりわけ、慢性尿細管間質病変の形成には、時相を異にした拒絶反応や薬剤性腎障害などが関与し、その成因を見極めることが困難である。最近、私たちは、髄放線に沿った病変分布と尿細管腔内に円柱貯留が目立つ症例では、下部尿路異常(膀胱尿管逆流(VUR)や膀胱機能障害)を疑い検索をすすめている。今回、小児腎移植患者にみられた慢性尿細管間質病変の成因の一端を明らかにすることを目的として、下部尿路異常と病変形成との関連性について検討したので報告する。
【方法】
2007 〜 2008年に施行したプロトコール移植腎生検所見で、原因の特定できない慢性尿細管間質病変を有した28例について、Tamm Horsfall蛋白(以下THP)染色を行い、その分布と病変形成について検討した。また、13例についてVURの有無とDMSAシンチによる腎瘢痕形成を検索した。
【結果】
28例は、髄放線沿いにあるいは皮質まで巣状に分布する慢性尿細管間質病変や慢性間質性腎炎像を呈していた。THP染色では、28例中17例(60.7%)に糸球体ボーマン嚢腔内への、10例(35.7%)に間質へのTHP逸脱を認めた。膀胱造影を行った13例中9例に移植腎へのVURがみられ、これら全例に尿細管外へのTHP逸脱を認めた。
一方、VURのなかった2例(残尿を呈する幼児と巨大膀胱による水腎症例)にも尿細管外へのTHP逸脱がみられた。
瘢痕形成は、VURに起因する無症候性尿路感染症から慢性間質性腎炎像を呈した2例にみられた。
【考察】
移植腎へのVUR例では、intrarenal refluxが全例に生じ、少なくとも単一ネフロンレベルの尿路閉塞とそれに伴う間質炎や線維化、尿細管萎縮が生じることが示された。VURがない症例でも、排尿習慣が確立していなければ、同様の病像を呈することが推測された。慢性尿細管間質病変の形成は尿流うっ滞がある限り持続し、緩徐に進行すると考えた。ここに、免疫抑制下での尿路感染症による瘢痕形成が加われば、腎機能障害の進行は加速すると考えた。
【結語】
下部尿路異常により形成される慢性尿細管間質病変の存在が示された。


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