VUR(膀胱尿管逆流)FSGS(巣状糸球体硬化症)から腎移植を受け、移植後腎生検で、FSGSが確認された1例

新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎膠原病内科学分野
* 伊藤 由美、今井 直史
新潟大学医歯学総合病院 血液浄化療法部
西 慎一
新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器病態学分野
中川 由紀、齋藤 和英、高橋 公太
新潟大学長
下条 文武

 症例は32歳男性。3歳時に両側VURの逆流防止術を受けたが、11歳より蛋白尿が出現し、19歳時に1回目の腎生検を施行。1日尿蛋白は3.74g、血尿は認めなかった。GFRは23.7ml/minで、CKD4に相当した。免疫グロブリンや補体は正常、抗核抗体の上昇は認めなかった。腎生検組織には2個の糸球体に分節性硬化像が見られ(図1)、間質の線維化と、foam cell、リンパ球浸潤が広範囲に認められた。電顕所見では、糸球体上皮細胞の足突起癒合が糸球体領域の50%に確認された。FSGS lesionをともなうreflux nephropathyと診断された。テモカプリル、アスピリンによる治療を行ったが、尿蛋白は減少せず、徐々に腎機能は低下、21歳時に血液透析導入となった。30歳時に58歳の父をドナーとした生体腎移植が行われた。血液型は一致、HLAは3ミスマッチ、リンパ球クロスマッチは陰性。ドナーは高血圧の治療中であったが、コントロールは不良で、0h生検では細動脈硬化が顕著であった(図2)。移植後、免疫抑制剤として、シクロスポリン(CyA)、MMF、メチルプレドニゾロンを使用した。経過中、急性拒絶反応によりステロイドパルス療法、血液透析を施行した。その後s-Cre 2mg/dl前後で推移、プロトコールバイオプシーではBanff分類基準でborderline changeと診断され退院となった。CyAトラフ値は120ng/ml前後で推移し、尿蛋白は(−)であったが、移植後16カ月頃より尿蛋白が2g/日と比較的急速に増加したため腎生検を行った。腎生検組織では1個の糸球体に、糸球体係蹄の部分的虚脱と、硬化像、糸球体上皮細胞のfoam cell様の肥大がみられ、Collapsing typeのFSGSと診断された(図3)。電顕では足突起癒合はなかった。細動脈には全周性の硝子化がみられた。電顕では、糸球体上皮細胞の足突起癒合は認めなかった。持ち込み動脈硬化の悪化、慢性拒絶、CyA血管症に伴う二次性FSGSが移植後に発症したものと判断し、CyAをタクロリムスに変更、バルサルタンを開始したところ、約2週間で、尿蛋白は0.8g/dayまで減少した。
【考察】移植前はreflux nephropathyと関連し、移植後は持ち込み動脈硬化悪化、慢性拒絶、CyA血管症に関連し、移植前後では異なる機序によってFSGSが出現した例と考えた。当科で移植後に蛋白尿が陽性であった86例の腎生検では、FSGS lesionは約10%に認められ、慢性拒絶による動脈硬化やCyA血管症を伴う症例が半数であった。過去の論文でも本例のように移植後二次性FSGSの発症機序には慢性拒絶反応に伴う動脈硬化とCNI腎毒性としての血管症が関連していることが示唆されている。治療としては、ARB/ACEIやスタチン製剤が有効と言われているが、本例もARBにより尿蛋白は速やかに減少した。移植後の二次性FSGSに対しては、早期発見と早期治療が重要と思われた。


戻 る  ページの先頭