レシピエント由来細胞によるPTC内皮細胞の置換とリンパ管新生についての検討

石心会狭山病院 病理科
* 相田 久美
東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター
堀田 茂
東京女子医科大学 泌尿器科
土岐 大介、田辺 一成
東京女子医科大学 腎臓外科
渕ノ上 昌平、寺岡 慧
東京女子医科大学 腎臓小児科
服部 元史
東京慈恵会医科大学柏病院 病理部
山口 裕

【目的】移植腎慢性拒絶反応の標的として、傍尿細管毛細血管(PTC)が注目されている。堀田らにより、PTCの内皮細胞がレシピエント由来細胞に置換されることが確認されており、この現象が内皮細胞の形質変化やPTC基底膜の多層化等の慢性拒絶に関連する可能性がある。
【対象】血液型抗原であるA抗原は、パラフィン切片にて比較的容易に検出可能である。そこで、東京女子医科大学腎センターにて、A型レシピエントより移植をうけたB型あるいはO型のドナーで、移植後1年以上経過した症例31例を選択した。
【方法】移植腎生検組織標本の連続切片にて、抗A抗体を用いた酵素抗体法(SAB)法で免疫染色を行い、A抗原発現部をPAS染色と比較検討した。また、リンパ管を識別するため抗ポドプラニン抗体による免疫染色を追加した。
【結果】31例中、A型抗原陽性細胞が認められた症例は11例、陰性例は20例であった。陽性群と陰性群において、移植後経過時間、レシピエント年齢に有意差は認められなかったが、陽性群では女性の割合が高かった(p=0.02)。組織学的に慢性拒絶と診断された症例は8例で、3例にA抗原陽性であったが、慢性拒絶とA抗原の有無に有意な関連は見られなかった。リンパ管内皮でのA抗原陽性例を除外するため、ポドプラニン染色と比較したところ、陽性例の多くはリンパ管内皮にA抗原が発現していることが確認された。被膜直下の瘢痕部や炎症細胞浸潤部を除いて、真にPTCにA抗原陽性であったのは3例で、うち2例は慢性拒絶例で糸球体係蹄内皮や静脈内皮にもA抗原が確認された。もう1例は、慢性拒絶とは診断されていないものの、PTC基底膜の中等度以上の肥厚が広範囲に認められた症例であった。慢性拒絶例でA抗原陰性の症例5例は、いずれもPTC基底膜肥厚が目立たない傾向が見られた。
【考察】レシピエント由来細胞は、被膜直下の瘢痕様組織や線維化巣の新生血管やリンパ管に発現しており、これらは慢性拒絶を示唆する所見ではなく、組織損傷に対する修復機序と考えられた。しかし、皮質の比較的広範囲にA抗原陽性内皮細胞が出現する症例および糸球体内皮細胞や静脈内皮細胞に陽性内皮細胞が出現していた3例はすべて慢性拒絶例であったことから、PTC内皮細胞の置換は拒絶反応による内皮損傷の修復やその後の形質変化に関与している可能性が高いと考えられた。今後、さらに症例数を加えた検討が必要と考えられる。


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