感染症に伴う移植腎への炎症細胞浸潤と急性拒絶反応の鑑別を要した1例

北海道大学 腎泌尿器外科
* 田邉 起、三浦 正義、下田 直彦、福澤 信之、野々村 克也
北海道大学病院 病理部
久保田 佳奈子、羽賀 博典、松野 吉宏

 症例は69歳男性、原疾患CGNによる末期腎不全で透析歴は10年、63歳時に60歳の妻をドナーとして生体腎移植を施行した。血液型適合、HLA 6/6 mismatch、CDCクロスマッチ陰性、Flow T cellクロスマッチ陰性で、免疫抑制剤はtacrolimus(TAC)、mycophenolate mofetil(MMF)、basiliximab、steroidの4剤で導入した。移植腎機能発現は良好で血清クレアチニン(sCr)1.0 mg/dlで退院した。移植後5 ヶ月目と8 ヶ月目に急性細胞性拒絶反応Ibを発症しsteroid pulse、deoxyspergualin(DSG)による加療を行い、以後はsCr1.2-1.6mg/dlで推移した。移植後5年の2008年10月に全身倦怠感、微熱を自覚し、精査の胸部CTで左肺膿瘍を認めたため当院内科で気管支鏡下に膿瘍ドレナージ、生検を施行した。病理組織上、血管壁への炎症細胞浸潤、血管内にはグラム陽性球菌を認めた。同時にsCr 2.4 mg/dlと上昇したため腎生検を行い、間質にびまん性にリンパ球を主体とした一部に好中球を伴うi3相当の炎症細胞浸潤とt1相当の尿細管炎も認めた。組織像からはacute T-cell mediated rejectionも鑑別にあげたが、臨床経過から感染症に関連した腎炎と考えた。MMF中止、TAC減量して、抗生剤投与と輸液を行いsCr 1.2 mg/dlまで改善した。その後さらにサイトメガロウイルス網膜炎、カンジダ食道炎、ニューモシスチス肺炎を続発したが免疫抑制剤の減弱と抗生剤治療で完治した。2 ヶ月後の腎生検でi1相当の間質の軽度のリンパ球浸潤は認めるが尿細管炎はなくIF/TA gradeⅡのみであった。
 感染症に伴う移植腎への炎症細胞浸潤と急性拒絶反応の鑑別を要したので報告する。

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