献腎移植後、急速に移植腎の線維化が進行した一例

九州大学病院 腎疾患治療部
* 升谷 耕介、北田 秀久
九州大学大学院 病態機能内科学
山田 俊輔、土本 晃裕、野口 英子、鶴屋 和彦、飯田 三雄
国立病院機構福岡東医療センター 内科
片渕 律子
九州大学大学院 臨床・腫瘍外科学
田中 雅夫

 レシピエントは23歳、男性。低形成腎による腎不全のため9歳時に腹膜透析を導入し、16歳時より血液透析(HD)を受けていた(透析歴14年)。今回、心停止ドナー(63歳、女性。死因:くも膜下出血)からの献腎移植を受けるため緊急入院した。ドナーは死戦期に低血圧が持続し、血圧測定不能な状態から心電図波形の停止までに60分を要したため、心電図上の心停止から体内灌流開始までの時間は9分であったが、実質的な温阻血時間は不明であった。摘出腎の迅速診断を行い、糸球体係蹄および小動脈に血栓形成を認めないこと、間質線維化と尿細管萎縮が中等度に留まることなどを参考に移植を決断した(図1、パラフィン包埋標本)。Delayed graft function(DGF)の後、移植から19日後にHDを離脱したが、血清クレアチニン値(sCr)は4.5mg/dlまでしか低下せず、その後は徐々に6.5mg/dlまで再上昇した。経時的に行った移植腎生検では明らかな急性拒絶の所見を認めず、尿細管障害の像が遷延し(図2)、4 ヶ月後の生検では高度の間質線維化と尿細管萎縮を呈した(図3)。対側腎も当院において62歳の男性レシピエントに移植され、移植から12日後にHDを離脱した。sCr 5.1mg/dlの状態で退院したが、現在はsCr 2.1mg/dlまで低下している。本症例は若年レシピエントであったにもかかわらず対側腎に比べ移植腎機能が不良で、移植後早期に線維化が高度に進行した。その機序として、ドナーの死戦期動態以外に血圧や貧血等、レシピエント側の要因も考慮せねばならず、検討を要する症例と考えられる。


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