SLEにて生体腎移植後9年8カ月、腎生検で難解な組織像を示した1例

京都府立医科大学 人体病理学
* 益澤 尚子、柳澤 昭夫
京都府立医科大学 移植・再生外科学
岡本 雅彦、昇 修治、牛込 秀隆、吉村 了勇
大津市民病院 臨床検査部
浦崎 晃司

 症例は20代後半女性。約15年前(10代半ば)に、全身性エリテマトーデス(SLE)を発症し、約11年前(発症後約4年)に血液透析導入となった。約9年8カ月前(血液透析導入後約1年、10代後半時)に、母親をドナーとして生体腎移植(A型→A型, HLA one haplo-identical)を施行した。導入時免疫抑制剤はタクロリムス(Tac)アザチオプリ ン(Az)プレドニゾロン(PSL)を使用した。移植後はsCr 1.0mg/dl程度で推移していたが、移植後約1年半頃から蛋白尿が出現(1)し、約3年8カ月頃より蛋白尿の増加(2)を認めた。免疫抑制剤の継続(Tac 4mg Az 75mg PSL 10mg)にて経過観察していたが、蛋白尿がさらに増加(3)したため、今回(移植後約9年8カ月)、移植腎生検を施行した。臨床的には補体低値を認める以外はSLEの再発を示唆する症状や所見はない。
 組織学的には被膜直下を主体に約60%の糸球体が全硬化を示していた。残りの糸球体は腫大しており、係蹄基底膜のびまん性・全節性肥厚や二重化および多重化を認めた。係蹄内皮下には浮腫や滲み込みを認め、メサンギウム領域の拡大を認めたが、細胞増殖は軽度であった。間質およびPTC内の炎症細胞浸潤は軽度で、PTC基底膜は軽度肥厚していた。免疫組織化学ではC4dはPTCに陽性を示した。蛍光抗体法では主にIgMとC1qがメサンギウム・係蹄壁とも陽性であった。電顕所見では、メサンギウム基質や内皮下に高電子密度の沈着物がしばしば見られた。メサンギウム基質の増加、メサンギウム間入、内皮下腔の拡大を認め、新生基底膜も観察された。足突起は比較的広範囲で消失していた。
 光顕所見からは慢性拒絶と考えられ、蛍光抗体法や電顕所見からはSLEの再発が示唆されたため、その解釈に苦慮した症例である。慢性的な内皮傷害がある上にSLE再発による免疫沈着物が加わったことで複雑な所見を示したと推定された。transplant glomerulopathy and lupus nephritis(組織型分類不能)と診断したが、組織像が難解であったため症例を提示する。


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