フローサイトメトリークロスマッチ陽性腎移植の長期病理

札幌北楡病院 腎臓移植外科
* 三浦 正義、土橋 誠一郎、玉置 透
市立札幌病院 腎臓移植外科
原田 浩、堀田 記世彦、平野 哲夫
市立札幌病院 病理科
深澤 雄一郎
札幌北楡病院 腎臓内科
伊藤 洋輔

【目的】減感作療法の進歩により抗ドナー抗体を有しても腎移植が可能となり、短期臨床成績は良好である。今回長期病理を検討したので報告する。
【対象と方法】当施設フォロー中のフローサイトメトリークロスマッチ(FTXM)陽性腎移植後3年以上経過した11例を対象とした。移植時年齢は28歳から52歳、男性4例、女性7例でドナーは6例が夫婦、4例が親子、1例が同胞であった。感作歴は輸血6例、妊娠出産3例、腎移植3例であった。1例は移植直前まで抗体が自然消失したいわゆるhistorical XM陽性例であった。7例がクラス1抗ドナー抗体(DSA)陽性、2例がクラス2陽性、1例がクラス1、2とも陽性、1例は非HLAであった。観察期間は36−95か月であった。3年以降の定期腎生検で拒絶反応を認めた症例とそれ以外で移植腎機能として血清クレアチニン値より算出した推算糸球体濾過率(eGFR)、蛋白尿、拒絶反応既往、定期腎生検の所見を比較検討した。
【結果】全例で退院後までにはDSAが消失した。長期的には、4例で移植後3−8年の定期腎生検にてsubclinicalな拒絶反応の所見を認めた。うち3例で移植後1年以内の定期腎生検で、糸球体炎、傍尿細管毛細血管炎(PTC炎)が持続した。2例において移植後2週間以内に急性抗体関連型拒絶反応(AMR)を発症した既往があった。3年以降の病理所見は3例がc4d陰性であり、いずれも糸球体炎、PTC炎を伴っていた。1例のみDSAが陽性であったが2例 は陰性であった。C4d陽性の一例はDSAが陽性であった。これら4例の最新の生検では移植腎糸球体症(cg)を認めた。3年以降の生検で拒絶反応の所見を認めなかった7例では、うち3例で細動脈硝子化(aah)を認めた。この7例はAMRの既往はなく、1年以内に糸球体炎、PTC炎を認めたのは1例のみであった。eGFRの5年当たりの低下率はsubclinicalな拒絶反応を認めた4例では平均6.8ml/minで、残りの症例では9.0ml/minで差を認めなかった。蛋白尿にも差がなかった。感作歴のタイプ、DSAのクラスにも差はなかったが、移植前のFTXM値は前者で平均68%であったのに対し後者で41%と低い傾向にあった。
【結語】XM陽性移植後は、臨床的に異常がなくともsubclinicalな異常を認める頻度が高い。現行のバンフ基準では分類不能だが抗体が関与、またはT細胞が関与していると思われる所見を認めた。初期にAMRのあった症例、FTXMが高かった症例、1年以内に糸球体炎、PTC炎の持続した症例は長期的に異常を呈する危険性が高いと考えられる。移植後DSAが検出されなくても、移植前XM陽性例はドナー抗原に対する免疫学的記憶を有するための慎重なフォローが必要である。

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