ABO不適合型生体腎移植後4年を経て発症した非典型的溶血性尿毒症症候群の一例

東京女子医科大学病院 第四内科
* 川口 慧子、秋山 健一、佐藤 尚代、新田 孝作
東京女子医科大学病院 病理診断科
川西 邦夫、長嶋 洋治
東京女子医科大学病院 第二病理
本田 一穂
東京女子医科大学病院 腎センター 病理検査室
堀田 茂
東京女子医科大学病院 腎臓外科
三宮 彰仁、 渕之上 昌兵
川崎市立多摩病院 病理部
小池 淳樹

 症例は32歳女性。IgA腎症疑いの慢性腎臓病で末期腎不全となり、2010年(28歳時)に母親をドナーとしたABO不適合生体腎移植を施行され、術後は血清Cr 1.0mg/dL前後で経過していた。移植後4年目(32歳時)腹痛で近医を受診した際、Cr 2.28mg/dL、Plt 13万/μLと移植腎機能障害、血小板減少を指摘され、破砕赤血球を伴う溶血性貧血も認めたため、精査加療目的に当院腎臓外科入院となった。移植腎生検で糸球体係蹄内腔にフィブリン血栓を認めるとともに、細胞性半月体形成を認めた。糸球体血栓に連続して、多数の輸入細動脈にフィブリン血栓と内皮の腫大、炎症細胞浸潤があり、血管内腔の狭窄、閉塞を認めた。蛍光抗体法ではメサンギウム領域にIgA、C3、IgM、C1qの沈着を認めた。以上より、本症の腎病変を血栓性微小血管障害(TMA)+半月体形成性糸球体腎炎疑いと診断した。入院後測定した抗ドナー抗体は陰性で、鑑別目的に測定した抗好中球細胞質抗体(ANCA)や抗GBM抗体は陰性であった。細血管障害性溶血性貧血・破壊性血小板減少・急性腎機能障害の3主徴を呈したこと、下痢症状が軽微で志賀毒素が検出されなかったこと、a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13(ADAMTS13)活性の低下がなかったことより、本症を非典型的溶血性尿毒症症候群(atypical hemolystic uremic syndrome, aHUS)と診断し、血漿交換療法を計3回施行した。また第5病日目よりステロイドパルス療法(500mg/日×1)を施行し、後療法として経口ステロイド内服(0.5〜0.25mg/kg)を継続した。治療後も移植腎機能障害は進行し、第11病日に血液透析再導入となり追加加療目的に当科に転科となった。TMAの原因としてカルシューニュリン阻害剤による内皮障害を考慮し、タクロリムスを減量(タクロリムスの血中濃度は入院時4.0ng/mL、減量後は3.2ng/mL)した。現在、移植腎機能はCr 4.14mg/dLで透析を離脱し、血小板数は24万/μLに回復している。移植腎にTMAを生じる病因として、aHUSの他、ABO不適合移植後の抗血液型抗体による補体制御因子の異常、タクロリムスによる血管内皮障害、感染症により惹起された抗原抗体反応などがあるが、本症は移植後4年目に出現していることや、その病理像が非典型的と考えられたため、文献的考察と合わせて報告する。


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