1型糖尿病性腎症患者における腎移植後の移植腎病理組織変化の推移

東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
* 入村 泉、馬場園 哲也、内潟 安子
東京女子医科大学 第2病理
本田 一穂
東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター病理
堀田 茂
東京女子医科大学 腎臓外科
村上 徹、渕之上 昌平

 末期腎不全に至った糖尿病患者に腎のみを移植した場合、移植腎に糖尿病性腎症が再発することが知られている。しかし多くは横断面的な検討に留まっており、腎症再発後、長期にわたる病理組織変化を経時的に評価した報告はほとんどない。われわれは、母親からの生体腎移植後10年以上生着している1型糖尿病患者において、移植腎病理組織の経時的変化を観察したので報告する。
 症例は移植時年齢28歳女性。1986年(12歳)1型糖尿病を発症、2003年3月(28歳)糖尿病性腎症による末期腎不全に対し血液透析を導入された。同年4月(28歳)当院で母親からの生体腎移植を施行、移植直後より透析療法から離脱した。導入期の免疫抑制剤は、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルの2剤を併用、移植後血清クレアチニンは1.0〜1.5mg/dlで安定していた。1型糖尿病に対し、2007年8月(33歳)死体膵移植を施行したが、第4病日に血栓にて移植膵を摘出した。以後HbA1c 9〜14%とコントロールは不良であった。2008年9月(34歳)、腎移植の5年後にプロトコール腎生検を施行したところ、軽度のメサンギウム基質増加およびGBMの肥厚、輸出細動脈硬化、糸球体門部の小血管増生を認めたことから、糖尿病性腎症の再発と診断した。強化インスリン療法を継続したが、その後もHbA1c 10〜14%と高値が持続、Crは1.2〜1.5mg/dl、アルブミン尿は50-500 mg/g Crであった。2013年5月(38歳)、腎移植の10年後に再度プロトコール腎生検を施行、5年前の所見と比較し、メサンギウム基質は増加傾向で、一部メサンギウム融解と微小動脈瘤形成を認め、細動脈の硝子様硬化が進行していた。
 本例は、腎移植後長期にわたり移植腎病理組織変化を観察できた症例である。移植後糖尿病のコントロールが極めて不良であり、移植腎に組織学的な糖尿病性腎症の再発所見を認めたが、その進行は緩除と考えられた。移植腎機能は良好で、いまだ生着している。本例の経過から、糖尿病性腎症の再発が移植腎機能喪失の原因となる可能性は少ないのではないかと考えられた。また、移植後の長期管理の課題として、糸球体病変の進行のみならず、CNI血管毒性に注意して細動脈硬化の進行を防ぐことが重要であろう。


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