移植直後より高度な蛋白尿をきたし無尿となった巣状分節性糸球体硬化症の1例

国立病院機構 千葉東病院 外科
* 丸山 通広、圷 尚武、大月 和宣、青山 博道、松本 育子、長谷川 正行、西郷 健一、 浅野 武秀
国立病院機構 千葉東病院 内科
川口 武彦
国立病院機構 千葉東病院 腎病理研究部
北村 博司

 患者は58歳女性。下腿の浮腫を主訴に近医受診、腎機能低下を指摘され、その約6ヶ月後に血液透析導入となった。透析導入後に施行された腎生検では巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の診断であった。
 透析導入から2年4ヶ月後、夫をドナーとする血液型適合生体腎移植施行。温阻血時間3.8分、総阻血時間83分。即時利尿を認め、尿量は100ml/h以上あったが、血流再開5時間後ほどより徐々に尿量減少、翌朝には10ml/h前後となり第2病日は57ml/日と無尿に陥った。手術翌日の尿蛋白は17g/日であった。1時間生検では、腫大した近位尿細管の胞体内にはPAS陽性、PAM陰性の粗大な顆粒を認めた(Fig. 1)。超音波では血流は良好であったが、血管抵抗値の上昇を認めた。無尿の原因が不明であり、移植直前のサイクロスポリントラフ値が485ng/mlとやや高値であったため、術翌日からタクロリムスにコンバートした。その他の免疫抑制剤はバシリキシマブ、エベロリムス、プレドニゾロンであった。無尿に陥った第2病日の生検では1時間生検時の近位尿細管の変化が高度となり、胞体内の顆粒の増加を認めた(Fig. 2)。また刷子縁の消失や胞体の脱落も認めた。
 FSGSの再発を疑い、第2病日よりステロイドパルス0.5g×3日間施行するも尿量増加せず、血漿交換を2回、ステロイドパルスを再度施行した。尿量は若干増加したものの充分でなく(100〜200ml/日)、第22病日腎生検施行した。尿細管障害は軽減しており、尿細管胞体内のPAS陽性顆粒は消失していた(Fig. 3)。また近位尿細管の再生性変化を認めた。その後徐々に尿量は増加し、第26病日透析を離脱した。移植後1ヶ月時に尿蛋白5g/日ほどあり、FSGSの病勢が治まっていないと判断し、血漿交換2回、ステロイドパルス、リツキシマブ200mgを投与した。第70病日、血清クレアチニン1.13mg/dL、尿蛋白90mg/日で退院となった。移植後7ヶ月にても尿蛋白の増加は認めていない。
 本症例は移植直後にFSGSが再発、高度な蛋白尿となり、尿細管よりの蛋白再吸収の結果、尿細管が傷害され、無尿に陥ったと推測された。


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