腎移植3年目にThrombotic microangiopathyを呈し、拒絶反応の治療を行ったが機能廃絶となった1例

国際医療福祉大学 熱海病院 移植外科
白井 博之、矢嶋 淳、唐仁原 全
東京女子医科大学 第二病理
本田 一穂

【はじめに】腎生検で、Thrombotic microangiopathy(TMA)を呈する病態は様々である。Hemolytic Uremic SyndromeやTTP、薬剤性の腎障害などの他、腎移植例では、急性抗体関連型拒絶反応も血管内皮障害が強いとTMAの所見を呈する。今回、夫婦間の血液型不適合移植の後、2年6ヶ月目に急性腎不全を呈し、拒絶反応として治療を行ったものの、機能廃絶となった症例を経験した。このときの生検で、TMAの所見を得た。その経過と病理所見について報告する。
【症例】28歳、女性。原疾患不明の慢性腎不全となり、23歳の時に血液透析導入となった。25歳の時に、夫をドナーとして他院にて血液型不適合移植(B+→O+)を受けた。免疫学的には、HLAは6ミスマッチ。LCTおよびFlowXMは陰性。PRAも陰性であった。免役抑制剤の導入は、RXM+BXM+Tac+MMF+PSLで脾臓摘出は行っていない。3ヶ月目のプロトコール生検でBanff分類UBと診断され、ステロイドパルス療法およびDSGによる治療歴がある。また画像所見で移植腎動脈狭窄を指摘され、PTAによる拡張歴がある。その後、地元の病院でフォローアップを受けていた。移植後のCrは0.7〜1.0と良好であった。後日判明したことであるが、不正生理出血のため、経口避妊薬が2週間分投与された。約1週間内服した頃から、全身倦怠、食欲不振、発熱を来たした。約2週間自宅で安静にしていたが、改善せず、近医を受診した。この時、Cr5.43、BUN74.1と著明な移植腎機能障害を呈し、当院へ紹介入院となった。ほぼ無尿で、エコーで移植腎実質の血流はほとんど拾えなかった。拒絶反応として、血液透析を行いながら、ステロイドパルス、ATG、DFPP、γグロブリン、抗凝固療法を行った。治療開始より8日目に1回目の生検を施行した。糸球体および細動脈のTMAと傍尿細管毛細血管炎の所見が見られた(図1、2:Banff 2013:i0, t0, v1, g2, ptc2, ci0, ct0, cv0, cg0, ptcbm0, ah2, aah0, C4d0-1)。原因として、PRAは陰性なるも、AAMRを疑い、リツキシマブの投与を行った。しかし、利尿は得られず、治療から29日目に再度生検を行って、維持透析のまま退院となった。その時の病理所見ではTMAと広範囲なATNが残存し、細動脈の血栓形成と糸球体の虚脱がみられた(図3、4)。拒絶反応以外にatypical HUSを疑い、初回治療後50日目からPEXを5回施行した。ADAM13阻害因子陰性・活性71.7%だったが、臨床経過からエクリツズマブに適用のある補体異常症例とは考えられず、投与は行っていない。その後も利尿は得られず、現在発症後6ヶ月目になるが、維持透析中である。
【まとめ】移植後3年目の移植腎に晩発性に発症したTMA症例を経験した。PRAは陰性であったが、抗体関連型拒絶反応によるものであると考え治療を行ったが、急速に移植腎機能廃絶に陥った。後日の病歴聴取で経口避妊薬の内服が判明し、経口避妊薬によるTMAの可能性も浮上した。過去の報告例やTMAの鑑別診断について、臨床・病理学的問題点を考察する。


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