Plasma cell-rich acute rejectionの所見を伴い、Tリンパ球関連型拒絶反応および抗体関連型拒絶反応を呈した生体腎移植の一例

名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科
勝野 敬之、丸山 彰一
名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科
藤田 高史、加藤 真史
衆済会 増子記念病院 腎臓内科
両角 國男

【症例】40歳台 男性
【病歴】以前から痛風を指摘され、近医で通院治療を受けていたが自己中断した。X-4年CKDのため腎臓内科初診、Cre3.94mg/dLであった。X-2年、母親をドナーとする血液型一致生体腎移植施行。術後経過は良好であり、退院時Cre1.32mg/dLであった。免疫抑制療法は、副腎皮質ステロイド(PSL)、タクロリムス(TAC)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の3剤併用とした。X年2月、肉眼的血尿を主訴に受診し、Cre5.24mg/dLと上昇しており緊急入院となった。
【経過】問診にて怠薬していたことが判明した。実際TACの血中濃度は測定感度以下であった。拒絶反応の可能性が高いと考え、ステロイドパルス療法、血漿交換および大量γグロブリン静注(IVIG)を速やかに開始した。移植腎生検の所見で、高度の尿細管炎と間質への細胞浸潤が認められ、形質細胞の増殖も観察された。PTCへの細胞浸潤も高度であり、糸球体炎も認められた。C4d染色はPTCに一部陽性であった。病理所見より、Banff分類:t3i3 g1 v0 ci1 ct1 cg0 mm0 cv0 ptc3 ti3 c4d1 aah0と診断した。免疫染色の結果、CD3、CD20、CD138、CD68陽性細胞が確認された。浸潤している形質細胞に異型性はなく、κ・λ染色にてmonoclonalityは認められなかった。
in situ hybridization(ISH)法によるEBER染色は陰性であり、EBV感染細胞は同定されなかった。DSAを検索したところHLA-A26、B61、DR16に対する抗体が検出され(移植前検査ではDSA陰性)、最終的にTリンパ球関連型拒絶反応(TCMR)タイプTBとC4d陰性抗体関連型拒絶反応(AMR)の合併と診断した。初期治療によりCreは2.01mg/dLまで低下したが、その後3.09mg/dLまで再上昇したため、再度ステロイドパルス療法を行い、MMF増量(1500mgAUC0-12:37.89mgh/L)とともに血漿交換を再開した。また、リツキシマブ(RTX)200mgも併用した。TACの血中濃度はトラフで5-8ng/mLを維持した。最終的にCreは1.73mg/dLまで低下し退院となった。
【考察】本症例は、移植腎病理にて浸潤細胞の10%以上を異形性のない形質細胞で占め、plasma cell-rich acuterejection(PCAR)の所見に合致していると考えられた。PCARの診断には移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)の除外が必要だが、本症例は免疫染色の結果などから否定された。怠薬を契機にT細胞、B細胞活性化が惹起され、形質細胞増殖を介したde novoDSA産生による抗体関連型拒絶反応を併発した機序が想定された。PCARはnon-compliantbehaviorに関連して発症することも報告されている。PCARにおけるgraft survivalは良好でなく、治療法も確立していない。AMRを併発したPCARにおいて、血漿交換、IVIGおよびRTXの使用で治療効果を得ている報告もあり、本症例も一定の効果は認められた。しかし治療後の検査でもDSAは陽性で、Mean fluorescence intensity(MFI)も低下しておらず、今後腎機能が悪化する可能性を残している。PCARに対するボルテゾミブの有効性も報告されてきており、今後の治療選択肢として検討している。
【結語】怠薬を契機に発症した拒絶反応で、病理所見からplasma cell-rich acute rejectionと診断した。文献的考察とともに報告する。


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