腎移植後早期の髄放線障害(Medullary ray injury)の臨床病理学的意義

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
* 新倉 崇仁、小林 賛光、小松嵜 陽、古谷 麻衣子、岡林 佑典、山川 貴史、勝俣 陽貴、眞船 華、勝馬 愛、中田 泰之、山本 泉、丹野 有道、大城戸 一郎、坪井 伸夫、横尾 隆
東京慈恵会医科大学 泌尿器科
小池 祐介、三木 淳、山田 裕紀
厚木市立病院
山本 裕康
聖マリアンナ医科大学 病理診断学
小池 淳樹
東京女子医科大学 第二病理
本田 一穂
東京女子医科大学 泌尿器科
奥見 雅由、石田 英樹、田邊 一成

【背景および目的】移植腎における間質線維化・尿細管萎縮(interstitial fibrosis and tubular atrophy: IF/TA)は移植腎喪失の主要な原因の一つである。我々はこれまでに、非免疫学的機序として生じるIF/TAのうち、髄放線部障害(Medullary ray injury: MRI)に着目し、病理組織学的な病因分類を検討してきた(Pathol Int. 2010;60:744-9)。この中で、MRIはCNI毒性32.8%、VUR50%、UTI8.6%に分類され、VURを認めた5例中4例に排尿時膀胱尿路造影でのVURを確認した。しかしながら、生検時期が一定しないこと、長期的移植腎予後への影響は未検討であった。今回我々は、3か月以内のプロトコール生検で見られる早期MRI病変に着目し、MRIを病因別に分類し、移植腎予後への影響を検討した。
【対象および方法】東京女子医大泌尿器科で行われた腎移植症例のうち、3か月以内のプロトコール生検(ベースライン)でMRIを認める群(MRI+:34例)と認めない群(MRI−:19例)を抽出し、2群における後ろ向き観察研究を行った。病理学的にisometric vacuolization及びBanff aahの存在する症例をCNI toxicity(MRI+CNI)、間質のTHPやthyroid-like appearanceが存在する症例を尿路系異常(MRI+UT)、いずれにも該当しないものをその他(e.g. 急性再灌流障害、腎血流低下)に分類した。両群における継時的な血清Cr値の変化、1年目プロトコール生検での線維化進展の程度(IF/TA:Banff ci ct score)を比較した。なお、経過中に拒絶反応を呈したものは除外した。
【結果】両群で経時的に血清Cr値は低下したが、MRI+群はMRI−群に比べて、3年目の血清Cr値が有意に高かった。(0.97±0.06 vs 1.14±0.03mg/dl, p=0.024)。MRI+群をさらにMRI+CNIとMRI+UTに分けると、尿路系異常でのみ、血清CrがMRI−群に比べて高かった。(MRI− 0.97±0.06 vs MRI+CNI 1.13±0.07 vs MRI+UT 1.19±0.04mg/dl, p=0.026)。また、MRI+群におけるベースラインおよび1年目プロトコール生検におけるIF/TAを比べると、経時的に有意なIF/TAの進行が確認された。
【結論】腎移植後3か月以内にMRIを認める症例は、1年目プロトコール生検でIF/TAの有意な進行を呈した。また、これらの症例は、3年目の血清Cr値がMRI−群に比べて、有意に高く、尿路系異常で有意差を認めた。ベースラインでMRIを呈する症例において、何らかの介入(CNI濃度適正化、VUR加療など)が腎機能を保持し、長期移植腎予後を達成する可能性が示唆された。


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