移植腎生検にて微細石灰化を認めたことで発見し得た遺伝性低尿酸血症の一例

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
* 岡林 佑典、山本 泉、小松嵜 陽、新倉 崇仁、山川 貴史、勝俣 陽貴、眞船 華、古谷 麻衣子、勝馬 愛、中田 泰之、小林 賛光、丹野 有道、大城戸 一郎、坪井 伸夫、横尾 隆
東京慈恵会医科大学 泌尿器科
小池 祐介、三木 淳、山田 裕紀
東京薬科大学 病態生理学教室
市田 公美
厚木市立病院
山本 裕康

 症例は41歳男性。1983年(10歳時)に紫斑病性腎炎と診断されステロイド療法を開始するも、ステロイド精神病発症のため中止、保存的加療を行っていた。しかし徐々に腎機能障害増悪を認め、2012年(39歳時)に血液透析導入、2014年9月(41歳時)に実父をドナーとする血液型不適合(A→B)生体腎移植を施行した。術後経過は良好であったが、3か月目のプロトコル生検では、散在性に微細石灰化が認められた。微細石灰化の原因検索において、低尿酸血症(S-UA:1.9mg/dl)および尿酸クリアランス(CUA)高値(26.8ml/min:正常7.3-14.7ml/min)より、高尿酸尿症が確認された。ドナーにおいても低尿酸血症(S-UA:2.4mg/dl)が認められ、尿酸産生量(EUA):0.439mg/kg/hr(正常0.483-0.509mg/kg/hr)、CUA:14.6ml/minと、EUAと比較して相対的な尿酸排泄の亢進を認めた。以上の所見から遺伝性腎性低尿酸血症の可能性を考え、尿酸トランスボーターであるURAT1のDNA direct sequencingを施行し、レシピエント・ドナー両者でURAT1のexon5におけるC889Tのヘテロ一塩基多型を同定した。さらに、本例における遺伝子変異に特異的な制限酵素を用いて、ヘテロ遺伝子変異であることを確認した。本症例の遺伝子変異は終止コドンを誘導するため、C末端側を認識する抗URAT1抗体免疫染色を施行し、近位尿細管刷子縁におけるモザイク状の部分欠損を同定した。
 遺伝性腎性低尿酸血症は、高尿酸尿症を呈し、尿路結石や運動後急性腎不全を発症することが知られている。
治療として、尿のアルカリ化や飲水励行、過度の運動を避けるなどの生活指導が推奨されている。遺伝性低尿酸血症を有するレシピエントは、移植前は進行した慢性腎不全のために尿酸値が高く、本疾患を見過ごされることが多い。本例は、微細石灰化を契機に尿酸代謝異常を疑い、DNA direct sequencingにより遺伝性腎性低尿酸血症を同定し、抗URAT1抗体染色により近位尿細管におけるURAT1の部分欠損を確認し、具体的な治療に結びつけることのできた貴重な症例と考え、文献的考察をふまえて報告する。


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