ステロイドパルス療法単独で寛解し得たPlasma Cell Rich Acute Rejectionの一例

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
* 小松嵜 陽、中田 泰之、新倉 崇仁、岡林 佑典、山川 貴史、古谷 麻衣子、勝俣 陽貴、勝馬 愛、眞船 華、小林 賛光、山本 泉、丹野 有道、大城戸 一郎、坪井 伸夫、横尾 隆
東京慈恵会医科大学 泌尿器科
小池 祐介、三木 淳、山田 裕紀
厚木市立病院
山本 裕康

 症例は47歳男性。原疾患不明の慢性腎不全で2008年12月に腹膜透析を経た後、2013年11月14日に実父をドナーとする血液型適合生体腎移植を施行した【CMV IgG status Donor(+)、Recipient(+)】。術後1ヶ月で移植腎に腎盂腎炎がみられたものの、抗生剤治療にて速やかに改善した。術後1ヶ月での心エコーで心機能低下(EF31.9%)がみられ、タクロリムスによる心毒性が否定できず、シクロスポリンに変更し移植後59日目に退院となった(退院時S-Cr 1.9mg/dl、免疫抑制剤:mPSL 4mg、CsA 200mg、MMF 2000mg)。退院1週間後より下痢・嘔吐が出現しサイトメガロウィルス(CMV)アンチゲネミアが陽性(C10/11:152/157)となり、臨床的にCMV腸炎と診断した。治療としてガンシクロビル(GCV)投与と免疫抑制剤減量(mPSL 4mg、CsA 100mg、MMF 500mg)を施行したが治療抵抗性のため,フォスカルネット投与およびMMFをミゾリビン(MZ)に変更し、CMV腸炎は治癒した(mPSL 4mg、CsA 100mg、MZ 150mg)。移植3ヶ月目に行ったプロトコル生検では、尿細管間質における中等度の単核球を主体とする炎症細胞浸潤(i2)と随伴して、中等度の尿細管炎(t2)が認められた。炎症細胞浸潤は形質細胞が10%以上を占め、EBER、κλの分布異常・IgG4染色はいずれも有意でなかった。以上よりPCARと診断し(Banff: i2, t2, g0, ptc1, v0, ci1, ct1, cg0, cv0)、治療としてステロイドパルス療法mPSL500mg×3daysと免疫抑制剤の増量を行った(mPSL 4mg、CsA 200mg、MZ 150mg)。治療効果判定の移植腎生検を移植6ヶ月目に施行し、PCARの残存および軽度の移植糸球体炎(g1)と中等度の傍尿細管血管炎(ptc2)を認めた(Banff: i1, t1, g1, ptc2, v0,ci2, ct2, cg0, cv0)。抗ドナーHLA特異抗体は、LABScreen Single Antigen法にて陰性かつPTC C4d陰性であったことから、ABMRの根拠に乏しく、PCARの残存と考え、ステロイドパルス療法を追加実施した。移植1年目の移植腎生検ではPCARの所見は消失し(Banff: i1, t0, g0, ptc0, v0, ci2, ct2, cg0, cv0)、その後の腎機能悪化も見られず推移している(S-Cr 1.6-2.0mg/dl)。
 急性拒絶反応のうちPCARは、他の急性細胞性拒絶反応に比べ移植腎予後が不良で、ステロイドパルス療法のみでは治療抵抗性を示すことが報告されている。本例も単回のステロイドパルス療法では十分な効果が得られなかったが、複数回行うことで良好な結果が得られた。形質細胞浸潤の分布(瀰漫性・限局性)が予後と関連する報告もあり、PCARと定義される病態は画一的でない可能性が示唆される。同疾患の病態および治療を考慮するうえで貴重な一例と考え、文献的考察を含めて報告する。


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