腎移植における持ち込み糖尿性腎症の長期的推移の病理学的検討
Long-term histological analysis of diabetic nephropathy after kidney transplantation from diabetic donors to non-diabetic recipients

北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科
* 堀田 記世彦、岩見 大基、広瀬 貴行、佐々木 元、篠原 信雄
市立札幌病院 病理診断科
深澤 雄一郎
北海道大学病院 病理診断科
岡田 宏美、畑中 佳奈子
市立札幌病院 腎臓移植外科
和田 吉生、福澤 信之、原田 浩

【背景・目的】献腎移植では糖尿病を合併したドナーからの腎提供も行われることがある。その中には腎機能は正常であったにもかかわらず、病理学的に糖尿病性腎症(DMN)を発症している症例を経験する。しかし、耐糖能が正常であるレシピエントに移植された場合、これらの病変がどのように推移するかは明らかではない。前回は短期的な推移について報告したが、今回はドナーから持ち込まれたDMNの中長期的推移につき病理学的に検討した。
【対象・方法】糖尿病を合併した3人の献腎ドナーから腎提供を受け術後3年以上生着している5症例。全例0hr生検にてDMNの所見が確認され、その後の定期腎生検にて病理学的変化を検討した。また、臨床経過として腎機能に加え、HBA1cの測定とOGTTによる耐糖能評価も定期腎生検と同時に行った。
【結果】ドナーは全例男性で、年齢はそれぞれ58, 59, 66歳であった。搬入時腎機能障害なかったが、2症例は無治療のDMが発覚しHbA1c 9.6%, 10.9%と高値であった。もう1例はDMにてインスリン治療を施行されており搬入時HbA1c 6.0%であった。0hr生検では軽度のメサンギウム基質の増加を認めるものが1例で、びまん性にメサンギウム基質の拡大を認めた症例が2症例であった。レシピエントは女性4例、男性1例で移植時年齢は平均48.6歳であった。糖尿病の既往を持つ患者はなく、移植時のHbA1c、OGTTともに正常であった。観察期間はそれぞれ、3-5年で血清クレアチニン値は1.24±0.15 mg/dlと腎機能は良好である。また、経過観察中全例HbA1cは正常範囲内であったが、OGTTでは1例が境界型糖尿病と診断された。病理学的推移については全例、病変の進行は認めないものの、改善している症例もなかった。
【結語】ドナー由来のDMNが耐糖能正常のレシピエントに移植された場合、3-5年の期間ではその病変の進行はなく維持される。

戻 る  ページの先頭