拒絶反応との鑑別に苦慮するも経時的腎生検によりアデノウイルス腎症と診断し得た一例

日本医科大学 解析人体病理学
* 岡林 佑典、荒谷 紗絵、田川 雅子、勝馬 愛、金光 剛史、
青木 路子、梶本 雄介、康 徳東、長濱 清隆、清水 章
玄々堂君津病院 総合腎臓病センター
大崎 慎一、工藤 真司

 症例は37歳男性。2007年(28歳時)より原疾患不明の慢性腎臓病を指摘され、保存的加療を行っていた。徐々に腎機能障害の増悪を認め、2016年1月(37歳時)に妻をドナーとする先行的血液型適合生体腎移植を施行した。術後経過は良好であったが(退院時血清Cr:1.38mg/dl)、退院後11日目に発熱が出現し、膿尿(尿沈渣白血球>100/HPF)とCr上昇(1.65mg/dl)、画像上移植腎周囲のfluid collectionを認め、尿路感染症を疑い入院のうえ抗生剤加療を開始した。治療反応に乏しく、炎症反応や腎機能障害の改善を認めなかった。尿培養、腎周囲滲出液培養ともに陰性であり、Cr上昇の原因精査目的に第10病日に移植腎生検を施行した。腎組織所見では比較的区域性に強い尿細管炎を伴う単核球浸潤を認めた。炎症巣内の尿細管には単核球の浸潤とともに破壊やapoptosisを伴い、数個の核内封入体を思わせる上皮細胞の腫大核を認めた。糸球体には有意な変化を認めなかった。ウイルス性腎障害が疑われたが拒絶反応も否定できず、臨床的なウイルス感染の検索とともに、ウイルスの免疫染色や電顕の検索を進めた。しかし、進行性のCr上昇(Cr:2.37mg/dl)を認めたことから、拒絶反応とウイルス感染症との鑑別のために第22病日に再度移植腎生検を施行した。病理所見は間質への炎症細胞浸潤は目立たず、尿細管炎や傍尿細管毛細血管炎も明らかでなく拒絶反応は否定的であった。一方でisometric vacuolesを伴い変性した尿細管上皮細胞を認め、calcineurin inhibitor(CNI)による急性腎毒性の存在も疑われた。前回認めた尿細管炎を伴う単核球浸潤巣は明らかではないが、生検部位により病変が含まれていない可能性を考え、CNI毒性も考えられたことから、免疫抑制剤の減量を行い、腎機能障害は改善傾向になった。腎生検組織に対し抗SV40、抗サイトメガロウイルス抗体を用いた免疫染色を施行するも陰性であったが、抗アデノウイルス抗体による免疫染色にて尿細管上皮細胞核に陽性像を認め、アデノウイルス性腎症と診断した。尿中アデノウイルスPCRも陽性であった。アデノウイルス腎症は拒絶反応との鑑別が重要であるが、腎生検の光顕所見のみでは鑑別が困難なことも多い。本症例では尿細管炎を伴う強い炎症細胞浸潤からT細胞性拒絶反応とウイルス感染の鑑別に苦慮し、進行する腎機能障害から再生検を行っている。2度の腎生検所見によりアデノウイルス腎症と確定し得た貴重な症例であると考え、文献的考察を踏まえて報告する。

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