肝移植後腎機能障害に対し腎生検を施行した2例の検討
Kidney biopsies after liver transplantation

神戸大学医学部附属病院 腎臓内科
* 吉川 美喜子、清水 真央、西 慎一
神戸大学医学部附属病院 肝胆膵外科
小松 昇平、福本 巧
神戸大学医学部附属病院 病理診断科
原 重雄

【背景】固形臓器移植後の腎機能障害は移植後の生命予後を左右する因子であり、特に肝移植は移植後末期腎不全にいたるリスクが高いと言われている。当院では肝移植後慢性腎臓病の患者を早期より腎臓内科が併診し腎障害・合併症対策を行っている。腎臓内科紹介基準をeGFR60mL/min/1.73m2以下および検尿異常を有する症例としているが、紹介時にすでに腎萎縮が進み、腎生検が施行できない症例が多い。当院で腎生検が施行できた症例の生検所見と臨床経過を検討する。

【症例1】60歳女性。2年前に原発性胆汁うっ滞性肝硬変による肝不全に対し生体肝移植が施行された。移植前に検尿異常はなく、血清クレアチニンは0.5mg/dLであった。移植導入免疫抑制剤はmPSL、シクロスポリンであった。移植後PTLDを発症し、シクロスポリンの血中濃度は50pg/mL程度で管理された。移植後血清クレアチニンが1.2mg/dLまで増悪したことから腎臓内科紹介、検尿所見は尿蛋白、尿潜血陰性、尿細管マーカーの上昇も見られなかった。腎機能障害の精査のため腎生検が施行された。<腎生検所見>糸球体は44個採取、10個が荒廃糸球体である。残存する糸球体は虚血性変化が強くみられるが、構造の保たれている糸球体では明らかな変化はない。細動脈の硝子化はみられない。小葉間動脈の線維性肥厚は高度である。髄放線障害が強く、荒廃領域は皮質の40%程度である。蛍光所見に特記すべきものはない。

【症例2】58歳男性。14年前に慢性C型肝炎による肝不全に対し脳死肝移植が施行された。移植前の検尿異常は不明で、血清クレアチニン値は0.8mg/dLであった。移植導入免疫はmPSL、シクロスポリンで、移植後慢性C型肝炎の再発に対しIFN+抗ウイルス薬による加療が施行された。その頃より尿蛋白・潜血がみられるようになった。また移植2年後に糖尿病を発症、インスリンで加療されている。その後腎機能は徐々に増悪し(血清クレアチニン1.9mg/dL 尿蛋白6.5g/gCre)移植後腎機能増悪とネフローゼレベルの蛋白尿が出現し、精査のため腎生検が施行された。糖尿病性網膜症や補体の低下はない。<腎生検所見>糸球体は31個採取、7個が荒廃糸球体。残存する糸球体は分葉状になっているものもある。メサンジウム基質、細胞の増加がみられる。係蹄の二重化が目立つ。尿細管萎縮、間質の線維化は皮質の40%程度で、小葉間動脈の線維性肥厚、細動脈の硝子化が高度にみられる。蛍光所見は、IgG、IgA、C3、C1qが係蹄/メサンジウム領域に分節状にlinearに陽性。

【結語】固形臓器移植後の慢性腎障害の原因としてカルシニューリン阻害薬の腎毒性が挙げられる。肝移植後腎障害に関しては、ウイルスによる腎障害、糖尿病に加えて移植後の腎血行動態の変化が関与している可能性が考えられた。肝移植後腎障害に対し、さらなる検討が必要である。

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