生体腎移植後JCウイルス腎症の一例
A case of JC virus-associated nephropathy in a renal transplant recipient

市立札幌病院 病理診断科
* 岩崎 沙理、辻 隆裕、石井 保志、今本 鉄平、石立 尚路、
深澤 雄一郎
市立札幌病院 腎臓移植外科
見附 明彦、福澤 信之、原田 浩
国立感染症研究所 感染病理部
高橋 健太

【背景】ポリオーマウイルス腎症は移植腎機能、腎予後を左右する重要な疾患である。BKウイルス腎症に比して、JCウイルス腎症の頻度は低く不明な点も多い。今回、我々はJCウイルス腎症の一例を経験したので報告する。

【症例】40歳男性。慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にて20歳時より血液透析導入。33歳時に上行大動脈瘤および大動脈弁狭窄に対し、上行大動脈置換術および大動脈弁置換術(機械弁、ワーファリン内服中)の既往あり。36歳時に63歳の母親をドナーとするABO血液型適合生体腎移植を施行。移植後、拒絶のエピソードはなく、血清Cr1.8-1.9mg/dlで推移していた。3年を過ぎてから徐々に血清Cr値が上昇、尿細胞診でDecoy細胞の検出があり、3年9ヶ月にてエピソード生検が施行された。糸球体には著変なかったが、髄質よりの尿細管上皮に核腫大、スリガラス様封入体、核にSV40T陽性像、軽度の尿細管炎を認め、ポリオーマウイルス腎症が示唆された。加えて、機械弁に伴う変化と思われる、近位尿細管上皮へのヘモジデリン沈着を認めたほか、軽度のIF/TA、中等度のCNI arteriolopathyを認めた。血清、尿のPCRにてBKウイルスDNAが陰性であったことから、JCウイルスについて検索を行った。IHCで尿細管上皮の核にJCウイルス viral capsid protein(VP-1)抗体への陽性像を認めた。また、パラフィン切片より核酸を抽出し、real-time PCRを施行したところ、JCウイルス DNA(3140 copies/cell)が検出され、BKウイルスDNAは検出されなかった。以上より、JCウイルス 腎症の診断に至った。免疫抑制剤(TAC、MMF)を減量し、経過を追っている。

【考察】JCウイルス腎症の報告例は散発的かつ少数であり貴重であるが、本症例では腎生検組織でJCウイルス腎症を証明し得た。

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