移植腎抗体関連拒絶反応に伴う早期移植糸球体症における、光顕・低真空走査電顕(LVSEM)・透過電顕(TEM)を用いた評価の検討

東邦大学医学部 腎臓学講座
* 小口 英世、大西 弘夏、篠田 和伸、荒井 太一、桜林 啓、
板橋 淑裕、河村 毅、村松 真樹、高橋 雄介、米倉 尚志、
水谷 俊秀、西川 健太、大橋 靖、濱崎 祐子、宍戸 清一郎、酒井 謙
東邦大学医学部 病理学講座
三上 哲夫
山口病理組織研究所
山口 裕
東邦大学医学部 病院病理学講座
渋谷 和俊

【背景・目的】Haasらは移植腎抗体関連拒絶反応において、光顕で観察されず、透過電顕(TEM)でのみ認識できる、糸球体新生基底膜病変に対し治療介入を行うと、その後光顕レベルで認識できる移植糸球体症への進行を有意に抑制したと報告した(Haas et al. Am J Transplant 2011)。Banff 2013基準ではcgの有無を評価するのにTEMの評価が必須とされている。
ただし、TEM評価を多くの症例で迅速に行うのは、臨床の現場では課題が多い。今回我々は迅速性や簡便性に優れる低真空走査電顕(LVSEM)を用いて、移植糸球体症早期病変の検出を目的に、光顕・LVSEM・TEMを用いた観察を行った。

【方法】2016年度の定期生検で、病理学的に急性抗体関連拒絶反応(AABMR)と診断され、光顕でcg0(g1以上)と、病理診断されている5例において、LVSEM、TEMを用いて糸球体新生基底膜病変を観察した。また、2016-2017年度に病理学的に、慢性活動性抗体関連拒絶反応(CAABMR)と診断され、光顕でcg1(g1以上)と診断されている5例について、LVSEM、TEMを用いて糸球体新生基底膜病変を観察した。硬化糸球体や高度虚脱糸球体は除外した。光顕の病理診断はBanff2013基準に従った。対照群として、MCNS1例を光顕・LVSEM・TEMで観察した。
LVSEMの観察は、パラフィン切片を5μgに薄切したものを脱パラフィンし、PAM染色を行い、卓上型LVSEM(日立TM-3000)で観察した。TEMに関しては、当院のルーチン病理診断では、光顕とは別の腎組織をグルタールアルデヒド固定、樹脂包埋を行い、セミシン切片をトルイジンブルーで染色し、適切な糸球体を1-3個程度超薄切したものを、画像化しており、本研究では症例ごとのTEM画像を観察した。光顕・LVSEMは新生基底膜病変がみられる糸球体数をカウントし、TEMは新生基底膜病変がみられる糸球体係蹄数をカウントした。データは平均±SDで記載した。

【結果】光顕でcg0であったAABMR5例について検討した。5例のうち糸球体炎は、g1:4例、g2:1例であった。LVSEMで4例、TEMで3例に糸球体新生基底膜病変が観察された。LVSEMで観察可能な糸球体数は20.6±5.8個、TEMでは観察可能な糸球体数は1.4±0.5個であり、LVSEMはTEMに比して多くの糸球体を観察できた(P=0.042)。新生基底膜病変が観察された糸球体数はLVSEMで2.6±1.5個、TEMで新生基底膜病変が確認できた糸球体係蹄は1.4±1.3箇所であった。
つぎに光顕でcg1であったCAABMR 5例を検討した。5例のうち糸球体炎は、g1:2例、g2:2例、g3:1例であった。光顕用の検体では21.8±7.5個、LVSEM用の検体では20.8±13.6個、TEMでは1.6±0.9個の糸球体が観察された。糸球体新生基底膜病変が観察された糸球体は、光顕で5.4±4.0個、LVSEMで6.6±2.1個であった。5例中4例は、LVSEMを用いた方が、新生基底膜糸球体検出率(新生基底膜が観察された糸球体数/観察可能な総糸球体数)が高かった。また、TEMで新生基底膜病変が確認できた糸球体係蹄は、11.4±14.6箇所であった。
対照群として観察したMCNS症例では、光顕・LVSEM・TEMともに、明瞭な糸球体新生基底膜病変は観察されなかった。

【結論】LVSEMはTEMに比して多くの糸球体数を観察でき、光顕標本でcg0であったAABMR例において、LVSEMはTEMともに、光顕で評価できない、糸球体新生基底膜病変を観察し得た。また早期CAABMRおいて、LVSEMは光顕に比べて、5例中4例は、より高い割合で新生基底膜糸球体を検出できた。早期CAABMRおいて、LVSEMが光顕に比べて、より多くの糸球体の新生基底膜病変を観察できる可能性について、今後さらに症例数を増やして、検討予定である。

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