神経性やせ症を背景とした長期低カリウム血症により移植腎機能喪失に至った1例
A case of renal allograft loss due to long-term hypokalemia associated with anorexia nervosa

市立札幌病院 病理診断科
* 山口 貴子、井上 彩乃、眞田 美和、仲川 心平、古屋 充子、辻 隆裕
北海道大学医学部 統合病理学教室
岩崎 沙理
札幌医科大学医学部 泌尿器科学講座
太刀川 公人、田中 俊明

【現病歴】少なくとも高校生の頃より摂食障害/神経性やせ症があったとされる。高校生の時にはBMI 15.0 kg/m2と低体重で、20歳以降はBMI 17.0 kg/m2前後で推移していた。痛風発作を契機に腎機能低下(Cr 1.3mg/dL)、低K血症が指摘され、高尿酸血症、脂質異常症に対して加療を受けていた。29歳で慢性腎臓病の進行により血液透析導入に至った。30歳で母をドナーとしてABO不適合移植が施行された。術後はCr 0.9mg/dL前後であったが、移植後3ヶ月でCr 1.51 mg/dLまで上昇があり、エピソード生検でborderline changesと診断され、ステロイドパルスを施行され、その後はCr 1.2 mg/dLで推移していた。胆石発作による胆のう摘出術により食事摂取量が減り、低K血症(2.6 mmol/L)が持続していた。移植後1年10カ月でCr 1.98 mg/dLと上昇がありエピソード生検が施行された。
【腎生検所見】尿細管の萎縮と皮質の線維化は30%、瘢痕領域にリンパ球浸潤を認めるが、非瘢痕領域には尿細管炎や間質炎は認めない。近位尿細管に空胞変性を散見する。糸球体に著変はなく、傍糸球体装置過形成は指摘できない。動脈硬化は軽度であり、細動脈の硝子化は認めない。拒絶反応を疑う所見はみられず、腎機能低下の原因としてカルシニューリン阻害薬、低K血症、脱水などが鑑別に挙げられた。
【経過】一時的に食事摂取が良好となり、血清K値が上昇した時にはCr 1.5 mg/dL程度で推移していた。再び低K血症が持続し、Crは徐々に増加した。移植後2年9ヶ月で血液透析再導入となった。
【結語】拒絶反応やウイルス感染などは認められず、神経性やせ症を背景とする長期の低カリウム血症が移植腎機能低下の原因となったと考えられる症例である。低カリウム血症や神経性やせ症が移植腎に及ぼす影響について考察を加えて報告する。

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