タクロリムス投与移植腎例にみられた奇妙な泡沫状変性像

東京女子医科大学腎臓小児科1) 同泌尿器科2) 同腎センター検査科3)
東京慈恵会医科大学柏病院病院病理4) 
* 渡辺 誠司1)、服部 元史1)、山口  裕4)、堀田  茂3)
鈴木 俊明
1)、大西 麻紀子1)、松本 尚子1)、近本 裕子1)
徳本 直彦
2)、白髪 宏司1)、田辺 一成2)、東間  紘2)
伊藤 克己
1)

【はじめに】
 タクロリムスの腎毒性は、シクロスポリンのそれと類似し、泡沫状の尿細管変化を示す急性病変と慢性の細動脈病変がみられ、まれに血栓性微小血管症を示す。小児領域では、血中濃度の安定が得難く、腎毒性が起こりやすい。今回提示する症例では、タクロリムスの血中濃度が、移植後7日目で一時的に117ng/mlという通常の約10倍の値を示し、Crが0.6から0.9mg/dlまで上昇し、移植後15日目の生検では尿細管に明らかな泡沫状の変化はみられず、血管周囲や単発性に胞巣状の泡沫状変性巣が散見された。この病変が急性腎毒性と関連するのか否かを検索した。
【症例】  14歳男児。多発奇形があり低形成腎のため、末期腎不全となり、95年にCAPDを導入し、99年4月に母をドナーに血液型適応生体腎移植を行った。術後経過は順調であったが、術後7日目に経静脈的にタクロリムスを0.6mg/day投与中に前述の血中濃度に上昇がみられた。血圧、Crの上昇、腎血流の低下が認められた。一時、投与を中止する事により改善が得られたが、術後15日目、トラフレベル10.7ng/mlのとき、Crが1.04mg/dlとなり急性拒絶反応および、タクロリムスの腎毒性を考え腎生検を行った。
【腎生検所見】
 約25%の糸球体が全硬化に陥り、僅かな尿細管炎を伴う軽度の間質への単核球浸潤、動脈内皮の軽度の腫脹や空胞化がみられた。動脈周囲などの泡沫状変化のある細胞巣は、免疫組織科学的には、EMAとPNAが細胞質に非特異的な陽性を示し、甦MAが細胞群周囲に陽性で、CD68、CD34、LTAは陰性であった。
【考察】  これらの泡沫状変化巣は尿細管上皮やマクロファージとは考えられず、その局在から細動脈壁の変性像が最も妥当と考えられ、急性腎毒性の残存像と考えられた。


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