移植後約20年の長期生着が得られその生検組織に興味ある組織像を呈した2例

*聖マリアンナ医科大学 病理学、**東京慈恵会医科大学柏病院 病理部 
***東京女子医科大学 腎センター
* 小池 淳樹*、山口  裕**、堀田  茂***、田辺 一成***
渕之上 昌平***、東間  紘***、阿岸 鉄三***  

【はじめに】
 近年、本邦でも腎移植後長期生着の得られる例が見られる様になったが、これら移植腎の組織学的変化についての解析は十分に為されておらず、慢性拒絶反応との異同も問題になる。今回、約20年の長期生着が得られ、興味深い組織像を呈した生体腎移植後の2例を経験したので報告する。
【症例1】
 52歳、男。22年前(30歳時)、母をドナーとして生体腎移植を受け、その後メチルプレドニゾロン、アザチオプリンによる免疫抑制療法により血清クレアチニン約2.0mg/dlでコントロールされてた。血尿や蛋白尿などの尿所見は呈さなかったが、血清クレアチニンが3.1mg/dlと上昇したことを契機に移植腎生検が施行された。生検腎組織には、mesangiolysisを伴う糸球体硬化症が目立つとともに、著明な細動脈壁の硝子化を伴う動脈硬化症がみられた。蛍光抗体像では、IgM、フィブリノーゲン、C3、IgAの軽度の沈着が糸球体基底膜とメサンギウム領域に見られた。電顕像で糸球体基底膜のびまん性肥厚とメサンギウム基質のやや結節状の増加を認めた。
【症例2】
 44歳、男。18年前(26歳時)、弟をドナーとして生体腎移植を受け、メチルプレドニゾロンおよびアザチオプリンによる免疫抑制療法により、血清クレアチニン1.5〜1.8mg/dlと良好にコントロールされていた。今回、明らかな腎機能障害を認めなかったが、蛋白尿が出現したため生検が施行された。生検腎組織には、硝子化と泡沫細胞の浸潤を伴う分節状硬化をみる糸球体と多数の全節性硬化症に陥った糸球体がみられ、動脈系には著明な細動脈の硝子化を伴う動脈硬化症が認めた。蛍光抗体像では、IgM、C5b9、C1qのメサンギウム領域への著明な沈着を示した。電顕像では、メサンギウム領域への高密度沈着物を伴う糸球体の分節状硝子化や上皮細胞の変性および剥離が見られた。
【考察】  2例は組織学的に類似し、糸球体には硝子化や泡沫細胞の浸潤を呈する分節状硬化像を呈し、巣状糸球体硬化症様病変と、更に著明な硝子化を伴う細動脈硬化症を呈した。これらは、シクロスポリンやタクロリムスによる慢性毒性や一次性或いは二次性糖尿病(ステロイド剤の長期投与による)の合併を窺わせる変化である。しかし、今回の2例はいづれもアザチオプリン投与で、現時点では耐糖能障害も呈さず、これらとは別の原因によるものと考えざるを得ない。超長期生着による動脈末梢から糸球体の脆弱化や易損性と共に液性因子や代謝障害などが考えられる。


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