不明熱の原因として急性拒絶反応が否定できず腎摘した生体腎移植の一例:尿細管炎の顕著でない間質細胞浸潤の意義

福岡赤十字病院腎センタ−1・外科2
* 片渕 律子1、斎藤 省一郎2、梁瀬 哲郎1、池田  潔1
有馬  剛2 、亀井 隆史2、水政 透1、藤田 恵美1、田中 宏志1
藤見  惺1  

 症例は21才男性。平成3年4月(13才)血液透析導入(原病:逆流性腎症)。平成5年4月、母親を ト ゙ ナ ーとして生体腎移植を受けた。Prednisolone(PSL) 、 Cyclosporine (CYA) 、mizoribine(MZ)で導入。6月退院 。血清 ク レ ア チ ニ ンは(SCr)1.0mg/dlであった。平成6年1月SCrが1.4から1.6に上昇したため腎生検(Bx)施行。急性拒絶反応(AR)の所見なしと診断。平成6年9月より難治性口唇潰瘍出現。平成7年頃よりSCr上昇し1.7-1.8mg/dlで推移 。平成8年3月頃より持続性蛋白尿出現。8月12日BxにてChronic transplant glomerulopathy(TG),CYA arteriopathy(CAA)と診断。以後SCrは1.9−2.2mg/dlで推移。平成10年2月よりSCr上昇。3月には3mg/dl以上となったためBx。TG,CAAのほか 、糸球体の管内型増殖やmesangiolysisもみられた。尿細管炎は軽微で、間質には細胞浸潤と線維化が著明であった。この頃より舌炎出現。5月より口内炎増悪。7月より経口摂取不可となり同時期より37度から38度台の発熱出現。入院精査にも拘わらず原因不明で、各種抗生剤 、抗結核薬無効。8月12日Bx施行。尿細管炎が顕著でなくARは否定。8月下旬より白血球減少 、全身状態悪化したため8月29日移植腎摘出施行(SCr5mg/dl)。摘出腎にはTG, CAAの所見の他 、尿細管周囲毛細血管内に多核球 、単核球の集簇がみられた。間質の細胞浸潤・線維化は著明であったが尿細管炎は軽度であった。急性血管型拒絶反応の所見はなかった。腎摘後 、免疫抑制剤を中止したところ、口内炎・舌炎は速やかに改善し、次第に下熱した。本例の発熱の原因は何だったのか?また組織学的に急性拒絶反応を完全に否定できるか、が疑問点である。

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