移植後リンパ増殖疾患(PTLD)6例に関する病理組織学的及び分子生物学的検討

聖マリアンナ医科大学 病理学
* 小池 淳樹
東京慈恵会医科大学柏病院 病理部
山口  裕
東京女子医科大学 腎センター
堀田  茂、田辺 一成、渕之上 昌平、東間  紘、二瓶  宏

【目的】 PTLDは、腎移植においては、その約1%に発生するとされ、その大多数がEB ウイルス感染に関連して発生することが知られている。一方、この疾患の定義は曖昧で、悪性リンパ腫と呼べるような腫瘍性病変だけを指す者から、伝染性単核球症様の反応性リンパ節炎から悪性リンパ腫に至るリンパ組織の肥大を伴うものすべてを包括して呼ぶ者までいる。今回我々は、PTLDに関わる問題点とその解決方法を明らかにする目的で、これまで経験した腎移植後に発生し、PTLDと診断した例について、その病理組織像の特徴と増殖細胞のクローン性の解析を行ったので報告する。
【対象及び方法】
対象は女子医大腎センターで腎移植が施行され、術後PTLDを発生した6例である。 男/女比は4/2。これら6例から得られたPTLD病変について、増殖細胞の異型性の程度と形態学的特徴、In situ hybridization 法(ISH)によるEBウイルス由来RNAの検索、及びpolymerase chain reaction 法(PCR)による免疫グロブリン重鎖遺伝子(IgH)の検 出によるクローン性の解析を行った。
【結果】 移植腎にPTLDを発生した例が2例に認められ、他の4例はリンパ組織に発生した。移植腎に発生した2例は、形質細胞様の細胞質を伴う異型リンパ球の増殖からなり、背景 に急性拒絶反応を認めた。リンパ組織に発生した4例のうち、2例は大細胞型悪性リンパ腫に類似し、1例は形質細胞様細胞質を有する異型リンパ球を主体とする病変からなり、他の1例は濾胞中心芽球様の大型核を有するものの、多彩で反応性リンパ節炎様の像を呈していた。6例中5例でISHによるEBウイルスの検索が可能であり、これらは全例が増殖細胞に陽性であった。PCRによるIgHの検出は、4例で施行でき、2例でモノク ローンパターン、他の2例でオリゴクローン パターンであった。
【考察】 移植腎に発生するPTLDは、拒絶反応と混在するため、その鑑別が困難となる可能性があり、遺伝子レベルでのクローン性の解析が有用であると考えられた。リンパ組織に発生したものでは、悪性リンパ腫の各型を念頭に増殖細胞を注意深く観察すれば、ある程度その悪性度の判断は可能であると考えられたが、 一部に反応性病変と鑑別を要する多彩な像を呈する例が存在することに注意すべきであると考えられた。

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