死体腎移植後primary graft nonfunctionの検討:
apoptosisと形質転換の観点から見た病理組織学的検討とその意義

国立佐倉病院 外科
* 有田 誠司
同 臨床検査科病理
城謙  輔、岩下  力、坂本  薫、柏原 英彦
東京女子医科大学 泌尿器科
田邊 一成

 死体腎移植後primary nonfunction(PNF)を呈した1症例に対し生検像より病理 組織学的検討を行った。ドナーは47才男性でくも膜下出血にて心停止下の腎提供が行われた。移植に至るまでの総阻血時間は34時間14分と非常に長かった。レシピエントは50才男性でIgA腎症による腎不全にて透析歴は6年、HLAはAのみの1ミスマッチであっ た。腎移植は問題なく施行され、FK、MMF、Predが用いられたが、尿量は27病日 の446mlをピークに顕著な拒絶反応もないまま透析を離脱できずPNFと診断され56病日に移植腎を摘出した。腎摘出前に、移植直後、35、49病日と3回の腎生検が施行された。移植直後には高度な尿細管壊死を認めたが、以後の生検像では尿細管壊死は改善しており、糸球体も良好に保たれ、顕著な拒絶反応もなかったことより、PNFと診断された。腎摘の決定のための形態学的指標を得るために、生検組織、摘出腎組織よりapoptosis関連蛋白、尿細管の形質転換の経時的変化を調べた結果では、1)尿細管上皮のvimentinへの形質転換、PCNA(増殖因子)は経時的に増加、2)αSMA(間質細胞の形質転換、繊維化の指標)も経時的に進行、3)Fas抗原の尿細管上皮での発現は35病日で現れ、49病日で一旦低下し、56病日で再び上昇、4)TUNEL法による染色は明確な指標にならないとの結果であった。機能発現が遅延する移植腎の生検組織にこれらの検討を追加することはPNFの早期診断と腎摘の時期決定の一助となり得る可能性があり、更に症例を重ねて検討したいと考える。また、ドナーの対側腎は他施設で移植され生着した。両者の移植腎組織の比較も併せて供覧する。


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