腎移植後アデノウイルス感染に伴って血清クレアチニン値の上昇が認められた小児例の経験

東京女子医科大学 腎臓小児科
* 荻野 大助、服部 元史、中倉 兵庫、近本 裕子、宮川 三平
伊藤 克己
東京慈恵会医科大学柏病院 病理
山口  裕

 症例は11歳女児。1993年(2歳時)発症の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)で、種々の治療に抵抗して末期腎不全に陥った。1995年腹膜透析導入となるが、アスペルギルス腹膜炎のために血液透析に変更し、2000年11月14日父をドナーに血液型一致の生体腎移植を施行した。術後第一病日に尿蛋白が陽性となり、FSGSの再発として血漿交換を3回施行したところ、尿蛋白は陰性化し、以後順調に経過していた。
 術後17か月目の2002年4月上旬より発熱、尿蛋白の陽性化、CRPの上昇を認め、尿路感染症として抗生物質投与で経過観察していたが、4月14日より肉眼的血尿が出現した。4月15日移植腎生検を施行したが、同日夜間に無尿となり血清Crは4.0mg/dlまで上昇した。エコー、MRIにて著明な腎盂、尿管の拡張および尿管壁の肥厚を認めたが、膀胱バルーン留置、補液により利尿が得られ次第にデータは改善した。移植腎生検の結果、急性拒絶反応の所見はなく、遠位系尿細管を主とする慢性の間質性腎炎像であったため、抗生物質、ガンマグロブリンの投与、免疫抑制剤の減量にて加療した。尚、尿よりアデノウイルス11が分離された。
 移植後のアデノウイルス感染症で血清Cr値が上昇する機序として、感染を契機にした拒絶反応の発生やウイルスによる直接の腎障害、免疫複合体による腎炎などが挙げられているが未だに明確ではない。今回は、移植腎病理所見を提示しながら、腎移植後アデノウイルス感染に伴う腎尿路系障害について考察したい。

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