慢性移植拒絶腎の線維化に関する免疫組織化学的、経時的解析

国立佐倉病院 臨床検査科
* 城  謙輔
国立佐倉病院 臨床検査科
浜口 欣一、有田 誠司、坂本  薫、柏原 英彦

【目的】 ヒト移植拒絶腎のAcute Allograft Nephropathy(AAN)からChronic Allograft Nephropathy(CAN)に至る線維化進展過程を免疫組織化学的、定量的に解析し、その両者の相対的な把握が治療方針の決定や治療効果判定、予後の予測に生かされる可能性を知ることを目的とした。
【材料と方法】
移植から、1ヶ月以内3例、6ヶ月以内1例、12ヶ月以内3例、36ヶ月以内3例、72ヶ月以内2例、108ヶ月以内4例、120ヶ月以内2例の計18症例と,対照群として良性腎硬化症軽症例3例を用いた。パラフィン切片にHLA-DR, MHC class II(HLA-DP, DQ, DR),CD45RO(T cell),CD45RA(B cell), CD68(macrophage), transforming growth factor(TGF)β1、heat shock protein(HSP)47, vimentin(Vim),α smooth muscle actin(SMA), platelet derived growth factor(PDGF)-Aの免疫染色を施した。定量的把握法として、上記の陽性細胞を0.25mm2の細胞数として算出。 尿細管上皮の形質転換には、染色強度と分布により5段階評価をした。
【結果】 尿細管上皮では、MHC class II とHLA-DRがAANの尿細管上皮に形質転換として表出した。 一方、CANではvimentinが表出。間質細胞では、αSMAとvimentinが、間質幅の拡大、線維化に応じて、CANで増強した。炎症細胞では、AANにおいて、CD45RO陽性Tリンパ球の瀰漫性浸潤(150+-28/0.25mm2)が見られ、CANでは、αSMA陽性領域に集簇傾向を示し、1次リンパ濾胞を形成、その中心部にCD45RA陽性Bリンパ球とHLA-DR陽性 細胞の集簇が見られた。TGFβ1とHSP47では、AANにおいて、間質内の瀰漫性且つ密な浸潤細胞、尿細管上皮、内皮に陽性を示し、CANでは、尿細管基底膜周囲のαSMA 陽性、線維化領域に強陽性を示した。CD68とPDGF-A陽性細胞は、AANとCANとも同様の分布を示した。対照群では、上記の炎症関連細胞はなく、HLA-DRとMHC class II分子が、糸球体と尿細管周囲毛細血管内皮に陽性を示した。
【結論および 考察】
尿細管基底膜周囲のαSMA陽性領域並びに線維化領域にTGFβ1とHSP47陽性、CD68陰性細胞を示し、同領域の尿細管上皮にvimentin陽性を示すパターンがCANに特徴的であった。尿細管上皮にMHCclass IIとHLA-DRが陽性、周囲にTリンパ球、HSP47とTGFβ1陽性細胞の瀰漫性浸潤がAANの特徴像であった。Acute on chronic allograft nephropathyは両者の混合した連続的病変と見なされ、多くの症例は程度の異なる両者の組み合わせであった(表)。以上、腎尿細管線維化機構において、尿細管上皮、間質細胞のそれぞれの形質転換が炎症細胞のサイトカインとの相互作用のもとに、間質の線維化を進展させている様子が免疫組織化学的に確認できた。CANにおいても、非可逆的慢性病変と免疫関与の可逆的病変があり、両者の定量的把握が治療の選択や治療効果判定に役立つと思われた。


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