ABO血液型不適合腎移植後12年目に急激な転帰をとり死亡した一剖検例

京都府立医科大学大学院 医学研究科 移植・再生制御外科学
* 岡本 雅彦、大森 吉弘、市田 美保、若林 良浩、昇  修治
樋口 濃史、門谷 弥生、荻野 史朗、牛込 秀隆、中村 憲司
秋岡 清一、吉村 了勇
同 分子病態病理学
伊東 恭子、伏木 信次

【症例】 52歳男性、HCV陽性。1990年10月9日(40歳時)に実兄をドナーとするABO血液型不適合腎移植術を施行、免疫吸着、脾臓摘出術を併せて行った。免疫抑制剤は CsA+Az+PSL+ALG+DSGの5剤で導入したが、急性膵炎のため2週間でCsAを中止し Az+Mz+PSLで維持した。膵炎を繰り返し膵嚢胞も合併したが、軽快後は血清Cr値 1.5mg/dl前後で移植腎機能は安定し外来フォローされていた。移植後12年目の2002年7月11日、発熱と全身倦怠感にて他院に入院。この時点で黄疸、骨髄抑制が見られたが、C型肝炎の悪化と免疫抑制剤の副作用と考え輸血、G−CSF、抗生剤の投与、免疫抑制剤の減量により経過観察されていた。その後右上肢の蜂窩織炎を契機に急激に全身状態が悪化し、9月12日当科転院した。転院時DICスコア9点で循環動態も不安定であり、種々の治療に反応なく不幸な転帰をとった。剖検の結果、移植腎の腎皮質表層に近い部位では、硝子化した糸球体、間質の線維化が散在性に見られたが、陳旧性の病変で、大部分の糸球体、尿細管は正常に保たれていた。また間質の浮腫が認められたが末期の敗血症性ショックに起因するものと考えられた。消化管は空回腸から横行結腸にわたり蜂窩織炎性腸炎の所見が高度で、壁内に多数のグラム陽性球菌コロニーが認められた。肝臓は黄疸肝で慢性活動性肝炎の所見が見られた。
【結語】 本症例には多彩な病態が存在し、骨髄抑制、C型肝炎による肝障害がベースにあるものの、直接の死因は蜂窩織炎より敗血症となりDICを合併したことによると考えられた。膵炎のためCsAをoffし代謝拮抗剤中心の免疫抑制を12年間行ってきたが、この血液型不適合グラフトは病理組織学的にみても免疫学的機序による障害は軽度であると考えられた。


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