慢性移植腎症における移植糸球体炎は慢性液性拒絶反応を示唆する

虎の門病院 病理部
* 原  重雄
東京慈恵会医科大学柏病院 病理部
山口  裕
東京女子医科大学 腎センター病理検査室
堀田  茂、古澤 美由紀

【目的】  現在の移植腎病理診断基準では急性拒絶反応時の移植糸球体炎(TG)についてはスコアリング項目が取り入れられているが、慢性期におけるTGの意義は定まっておらず、慢性拒絶反応との関連も明らかではない。今回我々は、TGを合併した慢性移植腎症(CAN)を対象として臨床病理学的解析を行い、その意義について検討した。
【対象と方法】
 1998年8月から2003年12月にかけて東京女子医科大学腎センターで施行された腎生検検体計1,970例中、CANと診断されたものは241例あった。このうち、既往の腎生検結果が全て検索可能であった140例を対象とした。これらをTGの合併があった群(G群)となかった群(NG群)に分け、生検時の腎機能、尿蛋白量、抗ドナー抗体の有無、acute cellular rejection(ACR)/acute humoral rejection(AHR)の既往の有無、生検時におけるACRならびにchronic rejection(CR)の合併の有無、傍尿細管毛細血管(PTC)及び糸球体係蹄壁(GC)へのC4d沈着の有無、尿細管上皮細胞のHLA-DR発現の有無について比較検討した。
【結果】  G群は40例、NG群は100例であり、男女比、平均年齢、移植後経過期間に有意差はなかった。Cr値ならびに尿蛋白量に有意差はなかったが、いずれもG群がやや高値だった。抗ドナー抗体陽性症例はG群が高値であった(81.3% vs. 35.2%, P<0.05)。ACR, AHRの既往ならびにACRの合併率に差はなかったが、CRの合併はG群で多かった(95.0% vs. 27.0%, P<0.05)。PTCならびにGCへのC4d沈着はともにG群で多かった(PTC: 53.8% vs. 18.1%, P<0.05; GC: 59.3% vs. 15.0%, P<0.05)。尿細管上皮のHLA-DR発現に有意差はなかった。
【考察】  TGを合併したCANでは、非合併例に比べて抗ドナー抗体陽性頻度、PTCへのC4d沈着頻度が有意に高く、液性因子が関与していると考えられる。近年、PTCへのC4d沈着解析結果から慢性拒絶反応の中には抗体が関与している一群のあることが示唆されており、慢性液性拒絶反応という用語が提唱されている。慢性期におけるTGは慢性液性拒絶反応を示唆する組織学的所見と考えられる。
【結論】  移植糸球体炎を伴うCAN症例では液性因子が関与しており、慢性液性拒絶反応を示唆すると共に、係蹄壁の二重化像と硬化性血管症に加えて慢性拒絶反応を示唆する組織学的特徴の1つであると考えられる。

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