抗ドナーリンパ球抗体陽性生体腎移植症例における移植後プロトコール腎生検で、急性糸球体炎と軽度の尿細管炎を呈した症例

市立札幌病院 病理科
* 小川 弥生、田中  敏、高田 明生、武内 利直
同 腎移植科
原田  浩、平野 哲夫

 当院におけるフローサイトメトリー法による抗ドナーリンパ球抗体陽性の生体腎移植術は1990年から2005年までの間に12例ある。うち2000年以前に移植された7例では、6/7例が術後14日以内の拒絶反応を指摘され、うち4例が腎生検を行い、3例が病理組織学的拒絶反応を認めた。2000年以降の最近の移植例5例は、術後早期の拒絶反応は認められていない。術前処置や免疫抑制療法などの進歩で、今後軽症例が増加するものと考え、今回、2004年の抗ドナーリンパ球抗体陽性移植例のプロトコール生検を呈示する。
 症例は48歳、男性。現疾患は慢性糸球体腎炎。第一次移植腎機能喪失のため、妻をドナーとしたフローサイトメトリー法による抗ドナーリンパ球抗体陽性生体腎移植術を行った。術前処置として、二重濾過血漿交換を行い、免疫抑制剤はTacrolimus, mycophenolate mofetil, predonisolone,そしてbasiliximabの4剤投与とし、免疫学的ハイリスク群のためrituximabも併用した。移植腎機能は比較的良好であったが、術後3ヶ月のプロトコール腎生検でi1t2相当の尿細管炎と、糸球体係蹄内への細胞浸潤を認めた。明らかな血栓形成や、間質への好中球浸潤や出血などは認められなかった。borderline changeとし、生検後メチルプレドニゾロンパルス療法が行われた。術後5ヶ月時の腎生検は、病理組織学的には前回同様の軽度の尿細管炎と、移植後急性糸球体炎の所見を認めた。蛍光抗体法では、C4dがPTCに瀰漫性にmildな陽性像を認め、糸球体係蹄にperipheral patternで陽性であった。経過中、血清クレアチニンは1.2-1.4mg/dlと比較的良好であった。


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