傍尿細管毛細血管炎と血管壁肥厚は慢性拒絶反応の組織学的診断基準に成り得るか?

筑波大学人間総合科学研究科 基礎医学系
* 相田 久美
東京慈恵会医科大学附属柏病院 病理部
山口  裕
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター 病理
堀田  茂、 大野 真由子
東京女子医科大学 外科
渕之上 昌平、 寺岡  慧
東京女子医科大学 泌尿器科
田邉 一成、 東間  紘

【緒言】 Peritubular capillaritis (PTCitis)は、移植腎急性拒絶反応(AR)の活動性指標であるが、慢性拒絶反応(CR)での意義は明らかでない。我々は前回、CRにおけるPTCitisを検討し、移植後早期にARに伴ってPTCitisが出現し持続する症例とは別に、ARの既往がなく移植後半年から1年以降に出現しCRに進展する症例があることを見出した。前者・後者とも、電顕ではPTC基底膜(PTCBM)の多層化が見られた。この結果は、PTCitisおよび(あるいは)PTCBM多層化がCRの診断根拠として意義あるものであること、あるいはCRを促す因子である可能性を示唆している。今回我々は、PTCitisおよびPTCBM多層化がCRにどの程度特異性をもって出現するかを、長期経過した移植腎組織で検討した。
【症例および方法】
対象は腎移植後3年以上経過し、移植後1-6ヶ月以内の早期と1年以降に各1回以上腎生検にて組織が確認され、BUN、クレアチニン等のデータが入手可能であった53例。PTCitisは7th Banffで提唱されたptc scoreにて評価した。前回の検討により、電顕で認められるPTC基底膜多層化は光顕でのPTCBM肥厚と比較的よく相関することが確認されているため、肥厚の程度を高度、中等度、軽度、なしの4段階に分類したptcbm scoreを作成し光顕的に評価した。53例について1)両スコアの相関、2)各スコアとCR, chronic allograft nephropathy (CAN)の有無、3)係蹄基底膜およびPTCのC4d沈着等について検討した。
【結果】 最終生検時の診断内訳は1群(CAN with CR) 27例、2群(CAN without CR) 20例、3群(Non-CAN, Non-CR) 6例であった。Ptc scoreはそれぞれ2.11±0.66, 1.46±0.86, 0.67±0.46, ptcbm scoreは2.15±0.66, 1.21±0.74, 0.71±0.49であった(mean±SD)。Ptc score, ptcbm scoreの相関係数は0.78(P<0.001)で、極めて高い相関が見られた。両スコアとも2以上(中等度) を示す症例は1群で23/27例、2群で8/20例、3群では0/6例であった。凍結切片によるC4d染色は50例で施行され、各群の陽性率(weak, focalなものは除く) はPTCで37%, 15%, 17%、係蹄基底膜で79%, 35%, 17%であったが、ptc score, ptcbm scoreと必ずしも相関は見られなかった。また、transplant glomerulopathyの有無と係蹄のC4d陽性率にも関連は見られなかった。
【考察】 PTCitis, PTCBM肥厚はCRおよびCANに伴って高率に出現し、CRではその程度も強いことが分かった。したがって、これまでCRの診断基準に含まれていなかったptc score, ptcbm scoreはCRの診断に重要な指標となりうることが示唆された。一方、CAN without CRの中にもptc score, ptcbm scoreの高い症例が散見され、組織学的に高度の線維化、炎症細胞浸潤および尿細管萎縮を呈し、腎機能低下を伴っていた。現段階で、これらをCRと診断するのは適切でないと考えられるが、CANの症例の中にCRと同様に取り扱うべきものも含まれている可能性も考えられ、Banff criteriaのci score, ct scoreと共にこれらの所見を付記することにより、後期移植腎のより客観的、詳細な評価、解析が可能になると考えられる。

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