腎移植後長期経過後のステロイド中止例の臨床病理学的検討

市立札幌病院 泌尿器科・腎移植科・病理科
* 原田  浩、三浦 正義、小川 弥生、岩見 大基、堀田 記世彦
関  利盛 、富樫 正樹、平野 哲夫

【目的】 腎移植後長期間経過してからステロイドを中止した症例について臨床、病理所見につき検討した。
【方法】 市立札幌病院の腎移植患者270例中30例においてステロイドを中止した。これら30例の背景因子、中止前後の移植腎生検の病理所見、血清クレアチニン(sCr)、尿蛋白/尿Cr(uP/Cr)、血圧 、空腹時血糖(FBS)、総コレステロールと中性脂肪値(TC,TG)、骨塩密度変化速度について比較検討した。ステロイド中止時期は移植後16-235か月、併用免疫抑制剤はCNIはCyA14例、FK15例、不使用1例であった。
【結果】 中止前後で病理所見の得られたのは21例あった。2例でcg1の出現、2例でct1、1例でcv1、1例でci1、4例でahの出現、悪化が見られた。これら病理所見の悪化(ct,cv,cg,ci)が見られた症例で免疫抑制療法に差はなかった。元々6例にah1を認め、ahの出現、悪化は6例中は1例のみであったが、新たに3例で出現した。4例中2例がCyAベースで、2例がFKベースであった。また、原疾患がIgA腎症の10例中2例新たに再発した。蛋白尿の増加は4例で、うちcg2例、cv1例で悪化が見られた。sCrの悪化は4例で見られ、2例は蛋白尿の悪化が見られた症例で、3例は病理所見の悪化を伴っていた。血圧は3例で降圧剤の減量ないし中止が可能で、他2例でも血圧が改善した。蛋白尿が増加した2例で血圧が悪化した。高脂血症は10例でTGの改善、2例でTCの改善、1例でスタチンの中止が可能だった。3例でTGの悪化、1例でTCの悪化が見られた。FBSは4例で低下を認めた。
【結語】 多くの症例では安全にステロイド中止が可能ではあったが、中止前後で病理所見や尿蛋白、sCrの悪化した症例が散見された。しかし、その原因がステロイド中止とは断定できない。ahが悪化した症例ではむしろステロイド中止よりCNI減量の方が有用だったかも知れない。血圧、高脂血症の改善を見た症例も散見された。

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